あなたが好きなのです | ナノ

ナンパをするようには見えないけれど、まさかそういうことだろうか。なんて一瞬でも考えてしまった自分を殴りたい。ロランは至って普通と言うか、私を気遣ってはくれるけどナンパなんかできるような人では無かった。それは私の中にある今までの記憶からも分かることだ。

「顔色が良くなってきたようでよかったです」

「ありがとう」

今までこんな展開無かったから驚いた。そもそもあそこであの人に会うこと自体初めてだ。もしかしてこれは繰り返すのを終わらせるチャンスだろうか。それともただ単に私が何か別の行動をしたからだろうか。

「ファントムに聞いていた通りの人ですね」

「ファントムに?」

「はい。自分に正直なのに人には思考を読ませない。だけど決して悪い子じゃない、と」

「チェスに善いも悪いもないと思うけれど……」

ファントムのことだ。あること無いこと話したに違いない。

「あと、一途だとも言ってました」

「は?」

この時点ではファントムも違和感を覚えている程度のはずで、ロランとキャンディスが問い詰めない限り疑問を持つことは無かったはずだ。そうでもなくてもARMを調達しに行く時に話さないと彼は違和感すら覚えなかったかもしれない。だからファントムが、私のペタへの恋心を知る術なんて無いはずだ。

「アオイ?」

「何に一途って言ってたの?」

「えっと……すみません。好きな人に、と」

そりゃあ、ファントムとペタは仲が良いしペタへの態度で私の気持ちに感付くこともあるかもしれない。でもそれじゃあ最初にロランが言っていたのと矛盾が生じるし、そもそも私とペタが一緒にいるところなんて殆ど見ていないはずだ。だって書類整理の手伝いをさせられる時、最初に紹介程度のことをされた時以来ペタと一緒にファントムの前に現れたのなんて片手で足りる程度だもの。そんな数回で気付くはずがない。

「あの、アオイ。少しおかしなことを言ってしまうかもしれませんが、」

この展開は見たことがある。前にもあった。

「何だかずっと仲が良かったみたいに、話していると落ち着くんですよね」

「そうだね。私もそう思ってたところだよ」

今はロランに話を合わせておこう。そもそも仲が良かったはずだから合わせるも何も無いのだけれど。

よく考えればファントムくらいなら繰り返しても記憶を維持したままにくらい出来るのかもしれない。彼はカルデアの出身だと言っていたし、私達とは違った魔力の使い方を出来るのかもしれない。或いは何か特別なARMを使っているのかも。私が記憶を維持したままなのも、違和感があり過ぎて死ぬ直前にシールドのARMを使って頭を守ったからだし。

「アオイの目は綺麗ですね」

「そう? ありがとう」



事実を知る術をまだ持っていない


2013.07.18

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