あなたが好きなのです | ナノ

「頭痛い……」

可愛らしい声がトラウマになってしまいそうだ。私が告白をする時や何かに気付く時、必ず傍にいて後ろから襲われる。これで今まで普通に生活してきたんだから私の神経はおかしいのかもしれない。チェスの兵隊に入っている以上おかしな人間と思われても仕方ないけれど、自分がそう思う日が来るなんて思わなかった。

「今日は一週間の初めか……メモでも残してみましょうか」

朝起きて一番にすれば、それ以降メモが残るかもしれない。もしかしたら消えて無くなってしまうかもしれないけれど。

「ベッドの傍に置いておいたら嫌でも気が付くよね」

そう言って洗面所に行けば、そこにある鏡に不思議なものが映った。今まで目の色は茶色だったのに、いきなり青くなっている。いや、自分の目が茶色だったのは夢の中の話で、ベッドで眠るまでは今見ているこの色だった。まさか繰り返すのは私が生まれる前からなのだろうか。それなら私が殺される夢を見ることでその記憶が受け継がれることになる。そうすると、繰り返す前までは仲が良かったかもしれないロランやキャンディスさんと面識が無いと言うのも頷ける。いくら上等なARMを使っても人の姿を変えることなんて出来やしないだろうし。

「それにしても……この色にしっくりくるってことは、本来私はこの色なのね……」

随分と長い間茶色だった気がするから一瞬だけ違和感を覚えたけれど、暫く見ているとそれもどこかへ吹き飛んでいった。漸く本来の自分に戻れた気がして嬉しくなってくる。実際はまだ完全に戻ってはいないのだけれど。


「もういいんじゃないか?」

「どうして?」

「殺すから殺されるんだろ!」

痴話喧嘩か? 朝から仲が良いな。そういえばこのチェスの兵隊にカップルってどれくらいいるんだろう。片思いとかなら大分いたような記憶があるんだけど、両思いっていたっけ。まぁ全員顔見知りってわけでもないから私が知らない人もいれば、私が知らないカップルもいるのだろうけれど。

「でも繰り返すと言うことは殺さなければいけないの。じゃないとあの人は私を見ない。殺さなきゃ……あの子が気付く前に、あの子が言う前に……」

どこかで聞いたことある声だ。何度も聞いたことがある気がする。例えば、夢の中で――

「あなた……」

「誰!?」

光りを宿さない目が私を見る。睨みつけられているわけじゃないのに鋭く感じてしまうそれは、前にも見たことがあるような気がした。白い肌にウェーブがかった長い髪がやけに特徴的で、薄い桃色の唇がゆっくりと開かれる。

「何か?」

「い、いや……」

私はこの人に見覚えがある。何度も何度も私を殺した人だ。無感情とも取れる表情が逆に私を拒絶しているようで、その場にいるのが嫌になった。

「用が無いなら話しかけないで」

そう冷たく放たれた言葉に従う。

あの人はきっとまた私を殺しに来る。私が何かに気付いた時、私がペタに告白した時、或いはもういつでも殺しにかかってくるかもしれない。殺すことも殺されることも怖くないって思っていたのに、あの人を見た瞬間悪寒のようなものが全身に走って、今まで感じたことのない恐怖を感じてしまった。

「どうかしました?」

「ロラン……」

確か一週間の初めではロランと面識はないはず。どうして話しかけてきたのだろう。

「顔色が悪いですよ? あなたは……もしかしてアオイですか?」

「え、うん……」

「ファントムから聞いています。今度一緒にARMを調達に行くことになりました。ロランと言います」

やっぱり初対面だ。お互いちらほらとすれ違う程度はあったのかもしれないが、ちゃんと会話するのはこれが初めて。本当はずっと前から知り合いで仲が良かったのかもしれないけれど、繰り返されている間はお互い知らない人。

「具合が悪いのでしたら庭にでも行きませんか?」


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