「ファントム、いる?」
「やあ。どうしたんだい?」
「ペタに渡しておくよう言われたものを持ってきただけ」
「そう。ご苦労様」
ロランとキャンディさんの視線が突き刺さる。彼らの中にある違和感は何かと探しているのだろう。
「あの、髪の毛はそんなに短かったでしょうか?」
「え?」
「そういえば、ずっとその短さに違和感があったのよね……」
そういえば前にも感じたことがある。自分の髪の毛の短さに違和感と言うか納得ができなくて、こんなに短かったかと鏡を見ては首を傾げるばかりだった。それでも一気に髪が伸びることは無いから気にせずに過ごしてきたけれど。
「私の髪は長かったの……?」
思わず口走ってしまった。それに皆が驚いて、何故だか納得の声が上がる。
「そう! アオイの髪は長かったはずだわ!」
「どうして今まで気付かなかったんでしょう……いつもその長さを見ていたから見慣れていたんでしょうか」
「それはおかしいね。見慣れているなら違和感を覚えるはずはないだろうから」
じゃあどうして髪は短いのか。見慣れているとまで言われるくらい、ずっとこの長さだったはずだ。でも皆が皆違和感を覚えていると言うのなら私の髪は長かったのだろう。何も言わなかったけれどペタも違和感を覚えていたのだろうか。
「アオイ、どこに行くんですか?」
「ちょっとペタのところ行ってくる」
そう言えば前に一度、自分の目を見て違和感を覚えたことがあった。自分の目はこんな色をしていたか、と。その時の色は少し茶色っぽくて、それは自分の色では無い気がした。同じように髪の毛にも違和感を覚える。色には何も感じなかったけれど、どうにも長さがしっくりこなくて仕方なかった。
「ペタ!」
「ノックをしろ」
「ペタは、私の髪の毛の短さに違和感を覚えたことはある?」
「急に何なんだ」
「いいから答えて!」
もし違和感を覚えていたのなら、それだけで私にはチャンスがある。
「やけに短いと思ったことはある」
「違和感は……?」
「時々そう感じることもあるが……それを聞いてどうするんだ」
それならもしかしたら出来るかもしれない。私が殺されることによって私を印象付ける方法が。でも違和感だけじゃダメだ。もっと決定的な、繰り返しても忘れられないような何かがあれば……。
「じゃあ死んで」
後ろからそんな声が聞こえて、振り返る暇も無く頭に大きな衝撃が襲った。勢いで倒れればゆっくりと流れてくる生温かいものが視界に入ってくる。
「馬鹿な子……今までだって何度もそうやって死んで来たのに、学習しないのかしら」
「お前もな」
「殺すの?」
「あぁ。そうしなければアオイが生き返らない」
「生き返るんじゃなく繰り返しているのだけれどね……いいわ、殺して。ペタにだったら殺されてもいい」
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