「これは一体」
「その辺でのたれ死んでもらっては困るからな。様子を見に来ればこの様だ。具合が悪いのだから誰かに頼ると言うことを覚えろ」
「こんな細そうな体のどこに私を抱き上げる力があるのか」
「今すぐ落としても構わないんだが?」
「ごめんなさい」
「大体私とお前とでは違うだろう。身長も体重も、年齢も性別も」
「あぁ、うん」
そうだね。私とペタとでは全然違う。身長も体重も、年齢も性別も、知識の量も強さも、全く違う。
「ねえ、今私すごく不安なんだけど……」
「そうか」
「部屋に着いたらさ、少しだけ一緒にいてくれない……?」
「少しだけなら構わん。そんな状態で放っておいたら寝ていても死にそうだからな」
「ありがとう」
泣いたらダメだって分かってるのに、ペタの服が伸びちゃうって分かってるのに、泣くのを止められなくて、服を握る手を緩めることが出来なかった。
「暫くは消化にいい物を食べた方がよさそうだな」
「そもそも食欲なんてものがないのですが」
「食べないと治っても食べられなくなるぞ」
「それは困る」
消化にいい物って何だっけ。お粥とか? 麺類も物によってはよさそう。あとは摩り下ろした果物とかなら食べられるかな。
どんなに食べ物のことを考えても食欲がわかないなんて初めてだ。病気にはなるもんじゃないな。美味しい物を美味しいと感じられないなんて不幸だ。大好きなケーキでさえも食べられなくなるなんて嫌だ。
「余計なこと考えていないでさっさと寝ろ」
「いたっ……」
ペシン、と額を叩かれてしまった。この人実はお母さんなんじゃないかって時々思う。
でもお母さんだと嫌だな。娘の気持ちわかってくれないお母さんはダメだ。そうだな、例えばこういう人は……好きな人とかだったらまだいいのに。
* * * * *
「寝たか……」
全く……手のかかる女だ。もし食中毒なら被害者が増えるかもしれないな。まぁ、今までそんな報告無かったのだからその線は薄い。となると原因は一つしか浮かばないな。
「いい加減終わってほしいものだ……」
すっかり躊躇いが無くなった溜息を吐けば扉の外から感じる気配が入って来るのを待つ。しかし入って来ないところを見ると、まだその気は無いらしい。このまま見張っていれば手は出さないだろう。
「ダメよ」
「いつの間に……」
「絶対に、ダメだから」
そんな声が聞こえて振り返れば人の姿は無く、元に戻せばそこには赤い液体が広がっていた。
例えばいつもと違ったとして2013.06.21
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