何か気持ち悪い。言わなきゃいけないことがある気がするのに、それが何だったのか思い出せなくて気持ち悪い。目の前で仕事をするペタはいつも通りで、私だっていつも通りの仕事を貰っているはずなのにその光景が違和感しか生まなくて、いつもだったら大分進んでいるはずの仕事が全く進まない。
「具合でも悪いのか」
「別に、悪くないよ」
気持ち悪い。気持ち悪い。何だっけ、早く言わなきゃ。二人きりのうちに。じゃなかったらまた私は……何をされるの? そもそも何かをされるなんてどうして思ったの?
「ごめん、ちょっとトイレ」
気持ち悪い。胸の中がモヤモヤして、ずっとぐるぐる頭の中がかき混ぜられているような感覚。何かを思い出しそうで思い出せなくて、何かを言いたいのに何を言いたいのか分からなくて、それら全てを吐き出せばスッキリするのだろうけれど、この吐き出すじゃないし。あぁ色んな意味で気持ち悪い。
「食中毒にでもなったか……」
「ちょっと……女の子のこんな姿を見たり聞いたりしないでよ……」
「具合が悪いなら初めから言えばいいものを……全部吐き出した後はしっかり口を濯げ。タオルを持ってきてやる」
ペタの優しさにも気持ち悪さを覚えたけれど、今はそんなこと言ってられない。ペタの言う通り全部吐き出さないと気持ち悪くて身動き取れなくなってしまう。
「え……」
漸く落ち着いてから流しで口を濯げば、鏡に映った自分に違和感を覚えた。私の髪の長さってこんなだったっけ。目の色ってこんなだっけ。
「どうだ?」
「だ、大分落ち着いた」
「全部吐いたんだろうな? そうでなければ暫く籠ってろ」
「全部出したよ……」
ペタにはデリカシーと言うものは無いのだろうか。投げ渡されたタオルを受け取りながら思えば、意外にも柔らかい感触のタオルが心地好くて、わざわざ洗い立てのものでも持ってきたのかと思ってしまった。ペタに限ってそんなことは無いだろう。
「今日は休んでおけ。一応明日のARMの調達もな。ファントムには私から言っておく」
「ごめんなさい……」
泣いてしまいそう。こんなところで泣いたら溜息つかれてしまう。人前で吐いてしまったことなんて無いし、それによってペタの手を煩わせてしまったことが情けない。
「そんな顔をするな」
「え……」
「お前が泣きそうな顔をしていると、明日は槍が降るかもしれないからな。さっさと部屋で休め」
少し胸がドキッとしたのに、本当に女の子の気持ちを分かってくれない人だ。それじゃあ彼女も出来ないだろうに。絶対出来ないな。うん。出来なくていい。
「じゃあお言葉に甘えて休ませてもらう」
「あぁ、そうしろ」
ペタの声を聞いてから部屋を出た。まだ胸の中のモヤモヤは存在する。けれどこれ以上吐くことも出来ないし、頭の中がぐるぐるするのはどうしようもないことだ。この現象は一体何なのか。何か悪い病気にでもかかってしまったのだろうか。明日あたり誰かにホーリーARMでも使ってもらおうかな。あぁダメだ、自分の部屋に着く前に力尽きそう。もし私が死んだらその次にペタが過労死してしまう。
「それだけは、防がないと……」
「あまり無理をするな」
「ふえ……?」
急に足が地から離れていく感覚がして、浮遊感が襲った。
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