大嫌いな人の話 | ナノ

「初めてばれちゃったなぁ……」

部屋のベッドの上にゴロンと寝転がって、抱き枕を抱きしめて小さく呟いた。

私が私自身を嫌っていることは今まで誰にも気付かれず、誰にも話さずにいたことだ。勿論大好きなポケモン達にだってこのことは話していない。話して不安にさせるのが嫌だし、私は私が嫌いでも私のポケモン達は大好きだから言う必要も無いと思った。

初めて自分が嫌いということに気付かれ、バトルが終わった後に満足していないことも言い当てられて心臓が信じられない程の音をたてて、冷静を装うのが大変だったけれどもしかしたらこれもマツバさんにばれてしまっていたかもしれない。本当にあの人は凄い人だ。

「実は人の気持ちも分かる能力を持っているんじゃないかな……」

なんて本気で思えてくる。実際は目の能力以外は持っていないのだろうけれど。それでも凄いことなのに。私はなんて無力で愚かなのだろうか。

「はあ……」

明日からどんな顔でマツバさんと会えばいいのか分からなくて、溜息しか出てこない。


* * * * *


「こんにちは、ユキカちゃん」

昨日までと同じ、にっこりとした笑みを浮かべて挨拶をされた。私は突然かけられた声にドキッとしたと言うのに、この人は昨日のことなんて無かったかのような表情を浮かべて私に話しかけてきたのだ。

「こ、こんにちは……マツバさん」

いつだっただろう。マツバさんの笑顔に違和感を覚え始めたのは。誰にだって同じ笑顔を向けて、優しい声音で話す姿は周りの女性を虜にさせるのも頷けるのに、時々それが酷く刺々しく思えてくる。それと同時に彼は人を嫌っているんじゃないかとも思えてくるのだ。

私の考え過ぎであればいい。だけど、もし本当に人を嫌っているとしたら、やっぱり私も嫌われているのだろうか。私が嫌われるのは仕方ないにしても、私以外の人は嫌いにならないでほしい。

「また自分が嫌いって考えてる?」

「えっ」

図星をつかれて驚いてしまう。直接自分が嫌いって思ったわけじゃなかった。嫌われても仕方ないと思っただけだった。でもそれは私自身が自分を否定したのと同じだ。

やはり顔に出ているのだろうか。それとも本当にマツバさんには人の心を読む力でもあるのだろうか。

「自分の事が嫌いって考える時、伏し目がちになるよね」

「そうなんですか……?」

気付かなかった……。何でこの人はこんなにも他人のことに気付けるのだろう。周りをよく見ているからだろうか。私なんて、自分のことで一杯一杯なのに。

でもやっぱり人に興味を抱いているわけじゃなさそう。私と話す時も、私の方を見るけれど私の目を見ることは無い。今までも気になっていたことだけど、こうして意識するとそれが酷く違和感を覚える。

「あの……もしかして人が嫌いですか?」

気になり過ぎて思っていたことが口に出てしまった。言い終わってから慌てて口に手を当てる。もう遅いのに、恐る恐るマツバさんを見れば今まで決して笑顔を崩れなかった顔が驚きの色を見せていた。

「なんで?」

「えっと……」

平然を装うとしているみたいだけれど明らかに動揺している。「なんで」と言うたった一言がやけに重々しく放たれ、私の胸に深く突き刺してきたような感覚さえ覚えた。でもそれは当たっている証拠でもあると思い、私は普段使わない勇気を使って口を開いた。

「マツバさんを見てると時々、刺々しいなって思えて……」

折角振り絞った勇気だったのに、声が震えて情けない。それに選んだ言葉もやけに優しいもののような気がする。私の時、マツバさんはもっと率直に言ってきた気がするのに。

「……思ったより鋭いな」

「え……?」

ボソッと呟いた言葉が聞き取れなくて首を傾げたら、落ち着いてきたのかマツバさんはまた笑みを浮かべて私を見た。

「もし僕が人を嫌っていたら、ユキカちゃんに進んで話しかけはしないと思うよ」

いつもの笑顔で、いつもの声音で言う。一度気付いてしまったらもうそれが偽りにしか見えなくて、でも私に出来ることなんて何も無かった。

「そうですよね」

そう言って私も笑みを浮かべる。酷いものだろう。多分マツバさん程上手く笑えていない。でもどこかスッキリしている。きっと、ずっと気になっていた“マツバさんが隠している何か”に一歩近付けた気がするからだろう。

その後は普通に話をした。ムウマはどんな様子か、オタチはそろそろ進化するんじゃないか、ジム戦で使っていたブラッキーは元気か、なんていつも通りの世間話。マツバさんはずっと笑顔のままで、それは接着剤で張り付けた仮面のようだった。


2013.06.30

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