その他短編 | ナノ
大きい女の子の悩み事

自分の身長が嫌いだ。必然的に大きくなった手のひらも、女子にしては骨ばってる手の甲も、少し太い指も、筋肉質な両腕両脚も、腹筋も。私は自分の体の全てが嫌いだ。

私より大きい人は沢山いた。実際、知り合いにもいる。けれど、それでも私は小さくならなかった。

背が高いのはいいことだなんて思ったことない。他より頭が出るから目立つし、ヒールを履いたらちょっとした男性の身長になってしまう。

ギリギリ170センチに届かないからギリギリ女でいられる気がした。だから私はヒールを履かなくなった。ブーツも。

見上げるより見下ろすことが多かった。見上げることになってもあまり見上げなかった。見上げる対象は極少数だったから。それに、見上げる対象はいつだって男だったから。

女の子で、私より背の高い人と会ったことが無い。私より手のひらが大きい人と会ったことが無い。私より骨ばった人と会ったことがない。私より筋肉質な人と会ったことが無い。

だから思わず考えてしまうのだ。もしかしたら私は――女の子ではないのかもしれない、と。


「お前の細さであの威力の蹴りが繰り出せる意味が分かんねえ」

細いなんて久々に言われた。

「あの威力出すならもっと食えよ」

もっと食べろと言われたのは幼少期以来だった。

「私、大きいからあんまり食べない」

「ああ? どこが大きいんだよ。ちいせえだろ」

「は?」

小さいと言われたのは、この身長に到達して初めてのことだった。

「あ、わりい。俺の方がでかいから」

「そりゃあ、そうだろうけど」

どんなに私より大きい人でも、私を小さいと言う人はいなかった。隣に立つと目線があまり変わらない人ばかりで、私は隣に立つことさえしたくなかった。

彼の隣に立つと少し見上げることになる。彼は少し見下ろしてくる。その距離感はどこか心地良くて、見上げることが多くなった。

顔を覗き込まれることとか、手を繋ぐと私の手が彼の手に包まれてしまうとか、少し背伸びをしないとキスできないこととか、驚くことや面倒なことが増えたのに、私はそれが嬉しくて仕方ない。

「私って、女の子らしくないでしょう」

「は?」

「背が高くて、筋肉質で、骨ばってて、本当に女の子らしくない」

嬉しくて仕方ないから、自分を女の子だと思ってしまいそうだから、自分を貶してしまう。本当に可愛くないわ。

「ナマエさ、自分のこと女だと思ってねえだろ?」

「まあ……」

「俺にしてみればナマエは女だよ。ってか、俺の恋人が女じゃなかったら怖いだろ!」

「そりゃあ怖いわ」

女の子扱いだって、殆どされたことなかった。

「俺にしてみればナマエなんて小さいし、筋肉質でもねえし、骨ばってねえし、すげえ女の子だ」

あーあ、惚れ直しそう。

でもまあ、これでいいかと思い始めている。だって、この身長があったからこそ、破天荒と近い距離にいられるのだから。

「俺としては、その体であの威力のパンチや蹴りをどうやって出しているのか不思議なくらいだっつの」

「さっきも言ってたわね。その結果がこの筋肉質なんだけど」

私は知っている。他の女の子はもっと柔らかくてふにふにな肌をしていることを。破天荒だって知らないわけじゃあるまい。私より前に付き合った女なんて山ほどいるだろう。

「まあ、他の女に比べたらちょっと背が高くて、ちょっと手が大きくて、ちょっと骨ばってて、ちょっと筋肉質かもしれないけど、それでも俺にとってはどうでもいいことだし」

「……他の女と言うと?」

「今の話でそこ気になるか?」

「いや、嬉しかったから話逸らしたかっただけ」

ああ、もう。どうしてこいつは私を喜ばせるのがうまいのか。タラシなのだろうか。そんな素ぶりなかったじゃないか。

「ナマエは背が高いかもしれないけど俺にとっては小さいし、手も小さい。骨ばってるとは思えない。筋肉質はまあ……時々そう思うけど、それはお前の個性だろ。武器だしな。だから、あんまり気にすんなよ」

私より大きくて骨ばってる手が、私の頭にポンポンと優しく触れる。

彼はいつだって私より大きな背で、大きな手で、太い指で、骨ばっていて、筋肉質だった。隣に立つと見上げることができて、手を握ると包まれて、抱きしめられても包まれて、キスをする時は少し背伸びをする。

他の女の子にとっては普通なことなのに。破天荒といると、ああ、私、女の子だって思えてきて、それだけで嬉しいのだ。


2014.04.15

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