「それとも、キス以上もする?」
そう言ったロキの顔を手のひらで押し返した。
「調子にのらないで、ってさっき言ったよ」
「今日は機嫌悪いね? もしかしてお腹痛い? さすってあげようか?」
「ロキにデリカシーはないの?」
「あ、でもナマエはもう今月は終わってるよね?」
「何で知ってるの? 気持ち悪いんだけど」
機嫌が悪いのは自己嫌悪のせいだ。いくら好きでも二人の言葉を受け入れるべきじゃなかった。でも、キスだって何だって受け入れてしまうのだから、そんなことできなかったのかもしれない。
「二人が仲良くできないなら別れる」
「えっ」
どうして驚くんだ。二人同時にと言ったのはそっちだし、牽制し合って喧嘩するのもそっちだけれど、付き合っている私としては仲のいい二人でいてほしいのだ。
「レオもロキも勝手すぎて、ついていけない。外でキスなんて恥ずかしいのにしてくるし、それに感付いてもう一人ともしないと喧嘩するなんて馬鹿馬鹿しい」
でも、一度だって無理矢理してきたことなんてなかった。だから心底憎たらしくて、愛おしい。
「だって、僕らはナマエが好きすぎてどうにかなってしまいそうなんだ。どちらかと付き合ったらそっちを殺してしまいそうなくらい。だから、どちらかだけなんて嫌なんだよ」
とんだ我儘な双子だ。どうして私はそこまで好かれているのだろう。
「ナマエ、もう僕らのことは嫌い?」
捨てられた子犬みたいな目で見てくる。私はこの目に弱い。レオもロキも、それを分かっていてやってくるから本当にたちが悪いと思う。
「好き」
そうして結局、私は彼らに好きと言う。偽りとか嘘じゃないけれど、恋愛感情かも分からないその言葉に、目の前の男は心底嬉しそうに笑うのだ。
私はその顔が好きで、また明日には自己嫌悪するのだろう。
「携帯鳴ってるよ」
「え? あ、レオからメール……今家の前に来てるらしい」
「えー! 折角ナマエと二人きりだったのにー。そんなことなら鳴ってるなんて言わなきゃよかった」
さっきの私の言葉をもう忘れたのか。さては犬じゃなくて鶏なんじゃないだろうか。
いや、そもそも人間だった。
とりあえずロキを無視して玄関にレオを迎えに行けば、扉を開けた瞬間、飼い主を待つ犬が帰ってきた飼い主に尻尾を振る姿が思わず脳裏に浮かぶような、そんな笑顔を浮かべた。
「ロキいるの?」
しかし、玄関にある靴を見てそう言う。
「うん」
「キスしたんだ?」
何でこの二人はキスに拘るのか。
とりあえずレオも私の部屋に連れて行けば、見事対面した二人が睨みあう。どうせ家に帰ったら嫌でも顔を合わすのに、わざわざ喧嘩するようなことを毎日している二人が理解できない。
「別に、キスくらい許容範囲でしょ? そっちだって内緒でしてたんだし」
「でも最初に、僕に秘密でナマエとキスしたのはそっちだろ?」
ああ、面倒だ。
「喧嘩したら別れる」
そう言ったらビクッと肩を震わせて、しゅんと落ち込む二人。耳と尻尾が垂れているように見えるのは私の気のせいだろう。そもそも人間に大きな耳と尻尾は無い。尻尾に至っては初めから無い。
「別に、今は別れないからそんなあからさまに落ち込まないでよ……見てるこっちが申し訳なくなる」
「じゃあ好き?」
「僕らのこと好き?」
心底面倒くさい。
「うん。好きだから、とりあえず離れて」
そう言っても離れないのは知っている。私が本気で拒否していないことを彼らは知っている。
同時に両側から頬にキスをされて、ぎゅう、と抱き着かれることに何の嫌悪も抱かないで二人と付き合っている私も、取り合いながら牽制し合いながら二人で私を愛するレオとロキも、全員が間違いと気付きながらそれを見て見ぬフリをしているのだ。
なんて愚かな人達2014.03.18
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