崩れ始めた
「何してるんですか、ランス様」
「何をしているか…そんなもの、一目瞭然でしょう」
「ならば一言こう言いましょう。退け」
何故こうなってしまったのか。
今私は仰向けに寝転がっていて、それに覆い被さるように私の上司が私の上にいる。
至極簡単に言えば、自分の上司に押し倒されている状態だ。
本当に、どうしてこうなった。
確か私は休憩室のソファーに座り、ミルクティーを飲みながら少しうとうとしていた。
他に人はいなかったから、もしかしたら何分か寝てしまったかもしれないが、ガチャッと扉が開く音は聞こえたような気がする。
誰かが入ってきた気配がして、声をかけられたような気もするが、その辺は曖昧で、適当に返事をしていたら頭をソファーの肘掛けに強く打った。
その衝撃で目が覚めたわけだが、目の前には上司の緑頭もといランス様がいて、冒頭の言葉を吐いたわけだ。
「(気持ち悪い…男がこんなに目の前に…)」
早く退けよ、と思いつつ上司を睨み付けるも、その上司は全く退こうとしないどころか退く気もないらしい。
「うとうとするあなたがあまりにも愛らしくて少しムラッとしましてね」
「!? 最低! この腐れ上司!!」
あぁ、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!
男はみんなそうだ。
みんないやらしいことしか考えてない。
下心丸見えで近付いて、偽りの優しさを見せて、自分の言う通りに動かそうとする。
「早く離して! じゃなきゃ今ここでっ…」
「どうするんです?」
ポケモンでも出しますか? なんて余裕な顔で問われる。
しっかり押さえられた腕ではモンスターボールを取り出すどころか、目の前の男を殴ることすらできないわけで。
気持ち悪い、大嫌いな男をいつでも殴れるように鍛えた意味も、覚えた技も無意味なもので。
そう思ったら、私は酷く弱い人間だと思い知らされた。
「…手を出すとでも思いましたか?」
「……」
「いきなり、そんな怯えた表情をするので」
泣きそうですよ、なんて言いながら頬を撫でてきた。
「確かにムラッとして押し倒しましたが、これ以上をするつもりはありません」
「………」
「あなたが、嫌がるのなら」
「…嫌に決まってます」
撫でられた頬が熱い。
やっと退いてくれた緑頭は、私が起き上がると隣に座ってきた。
心の中であっちいけ…と思いながらとっくに冷めたミルクティーを一口飲む。
「これでは、キスも一苦労ですかね」
「はあぁっ!?」
思わずミルクティーを吹き出しそうになった。
「何バカなこと言ってるんですか! 私が男とキス?! 絶対にあり得ない! ましてやランス様が相手なんて口が裂けても鼻を折られてもゴルバットに噛みつかれても嫌です!!」
「酷い言われようですね」
「あとさっきの行為といい、今の言葉といいセクハラに該当するので、次またセクハラしたら私のニューラのメタルクローを受けてもらいますよ」
居心地が悪くて、一気にミルクティーを飲み干して休憩室を出ようとした。
「好きな相手にアプローチをかけるのはセクハラとは言わないんですよ」
出る間際に言われた言葉に、思考回路が停止したように思えた。
あぁ本当、気持ち悪い。
男なんかに顔が熱くなって、心臓がバクバクしてる自分なんて、気持ち悪い。
崩れ始めた(たった一人の男によって)
end
あとがき
私はランスさんを何だと思ってるんだか…。
でもランスさんも一人の男だもんね←
早くこの二人くっつけばいいのに←
2011.10.19
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