ポケモン短編 | ナノ
泣いた後は

基本、女性に泣かれるのは困る。どうしたらいいのか分からないし、今まで俺の前で泣く女は理由も言わずにただただ泣いて怒るような人ばかりだったからだ。原因は俺にあると言われても、その原因を言わないのだから分からなくても仕方ないと思うのだが、今まで付き合ってきた人達はそれすらも分からないなんて酷いと言う。原因も言わない奴が責任だけ押し付けてくるんだ。

しかし、今回ばかりは俺が悪いと心底思う。目の前で静かに、俺が悪いとも言わず、自分が悪いとも言わずにただただ涙を流しているのだ。

「えっと、俺が悪かったから、もう泣き止んでくれないか……?」

責任を俺に押し付けるような人達とはそう長く続かなかった。今思えば大して好きじゃなかったのかもしれない。ただ、別れた後は申し訳ないと思うのは確かだ。でも、今付き合っている彼女のことは本気で好きだと思うし、できれば泣かせたくはない。原因が俺であれ、他の何かであれ。

「ご、ごめ、んなさい……」

今まで何も言わなかったのは嗚咽を我慢していたからなのか、途切れ途切れ言葉を紡いだ。

「でもっ……うっ……」

「だ、だから俺が悪かった! ごめん! ごめんなさい!」

「ち、ちがくて……」

ここまで彼女が泣いている理由は、昔の彼女が置いていったものがいくつか残っていたのが原因だ。それだけならこんなに泣くこともないのだろうが、あろうことか一緒に撮った写真が写真立てに入ったままベッドの近くに置いてあったものだから勘違いしたらしい。だから本人は泣きながらも申し訳なさそうに謝るし、俺に責任を押し付けようとはしない。

俺がこいつと付き合い始めた時に……いや、前の彼女と別れた後にすぐ写真を捨てればよかったんだ。だから悪いのは俺なんだが、俺が謝っても彼女は泣き止むことなく、とうとう顔を両手で覆った。

「ごめ……なさい……もうちょっと、まって……」

どうやら必死に泣き止もうとしているみたいだ。泣き止んでくれた方が楽なのも事実だが、スッキリしないまま終わらせるのは、こちらとしてもいい気分ではない。

とりあえず写真は写真立てに入れたまま捨てた。それだけで泣き止むとは思えないけど。それでも彼女の不安要素になり得るなら全て捨てたって構わない。

でも、どうしてだろうか。泣いている姿が可愛く見えてきて、暫く眺めていたいと思ってしまうのは。泣いている理由が嫉妬からだと思うと愛しくなる。手で覆われてしまって少し残念に思ってしまうなんて、俺は随分と酷い男だと思った。

「はあ……」

落ち着いたのか、或いは手が疲れたのか、漸く手を下すと息をついた。まだ涙目ではあるが泣き止んだようで、自分の袖で濡れた頬を拭おうとしている。それを遮って指で拭ってやると無防備な表情をした。

「可愛いな……」

「え……?」

思わず口走ってからしまった、と思う。きょとんとした顔の彼女が可愛いのは今に始まったことではないが、それにしたってさっきの顔は狡いし、泣いた顔も可愛いし、これはもう存在そのものが可愛いと言う結論でいいんじゃないだろうか。

「これから俺とお前の写真を撮って、新しい写真立てに入れて飾ればいい。そうだろう?」

「うん……そうだね。なんか、みっともない姿見せちゃってごめんね……」

「いいよ。俺が悪かったんだしな」

「そうだね。まさか今まで付き合ってきた彼女の写真が殆んど残っているなんて思わなかった。全部燃やすね」

可愛い彼女の可愛い笑顔が妙に黒く見えるのは、気のせいだろうか。


2015.05.08

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