ポケモン短編 | ナノ
週末の一時間

※現パロ注意


毎週金曜日の午後6時頃、小説コーナーで本を選んでいる女の子がいる。高校生だろうか。制服に身を包み、本のあらすじを読んでいる姿をよく目にするんだ。

高校生と言えば、人にもよるのだろうが友達と遊びに行くイメージが強い。金曜日の放課後ともなれば尚更だ。しかし彼女は決まっていつも小説コーナーにいた。少し様子をうかがっていると一冊抱えてカウンターに行く。土日に読む本を選んでいるのだろう。でも、それなら学校の図書館でも借りられるのではないだろうか。

そんな風に思ったが、不思議なことではないし気になる程のことでもない。そう思っていると、翌週の水曜日に本屋で彼女を見かけた。よく目にする近くの高校の制服を身に纏う姿は、図書館でいつも見るそれと雰囲気こそ異なっているように見えるものの、形はそのものだった。そして何より、本を物色する姿はまさに彼女だった。

いつも図書館にいるから本屋で出会うとは思ってもいなくて、何だか無性に気になってしまう。話したこともない、顔を合わせたこともない女の子に対してそう思うのは、少し犯罪めいている気がして自分の目的の本を探すことにした。すると、僕が手に取って見てみようと手を伸ばした本に彼女の手が伸びて触れる。

「あ、すみません」

「いえ、こちらこそ」

フィクションのような展開に驚きつつ、どうぞと言うと少し躊躇ってから「ありがとうございます」と言って彼女が本を手にした。中身をパラパラと捲って目を通している。

「あの、大学生ですか?」

「え? なんで?」

「いえ……大人っぽいのに参考書を手に取ろうとしていたので、大学生なのかなって思って」

間違ってはいない。けれど、どうしてそんなことを聞いてきたんだろう。

「いつも図書館にいる人ですよね?」

ドキッとした。もしかしたら、いつも少し見ていることに気付かれていたんじゃないかと思って。いや、実際見ているだけでも問題視されてしまうかもしれないけれど。言い訳をするならいつも本を選ぶ姿勢というか立ち姿が綺麗だと思ってから気になって目で追ってしまうだけなんだ。けれど、そんなこと言ったところで問題が問題で無くなることはないのだろう。

「目立つ髪の色なので」

「あ、ああ……そうだよね」

どうやら僕の視線に気付いていたわけではないらしい。ホッと胸を撫で下ろした。

「古典を学ばれているんですか?」

「まあ……」

「いずれはそういった職業に?」

「僕はとりあえず教師になろうと思っているけど」

「素敵です。私は興味があるんですけど、古典は難しくて……」

それで参考書を探しに本屋にいたってわけか。

「すみません。この参考書は私にはまだ早いみたいで、お譲りします」

「いいのかい?」

「はい」

「それなら、この参考書とか高校生向きだと思うけど、どうかな?」

別の参考書を渡してみると、それを受け取って中身を確認し始めた。

「これ、分かりやすいですね」

「そうだと思うよ」

「わざわざありがとうございます」

律儀にお辞儀までしてお礼を言うなんて、いったいどんな良い家柄で育ったんだろう。そう思わせる程に、彼女は高校生にしてはとても丁寧だった。

「一応高校の教師を目指しているからね。高校生向きの参考書はチェックしているんだ」

今回買いに来たのは自分用だけど。

「あの、失礼を承知でお願いしたいんですけど……」

「なに?」

「もしよければ、お時間がある時でいいので、勉強を見てもらえないでしょうか?」

「僕が?」

「今日会ったばかりの人に言われても困ると思うんですけど、私は本当に古典の自信がなくて……本当に時間がある時に気が向いたらでもいいので」

「いや、構わないけど……僕も教える練習になるし、こちらこそ僕でよければ」

「ありがとうございます!」

嬉しそうに笑うからドキッとした。

まさか高校生の女の子と仲良くなりそうになるとは思わないし、それがいつも目で追ってしまう女の子だなんて夢みたいな話だけれど、彼女を可愛いと思ってしまったのは多分、覆ることのない事実なのだと思う。


毎週金曜日の午後6時頃、図書館でいつも見かける高校生の女の子。いつもは本を選ぶ姿を横目で見るだけだったのが、今日からは違う。僕に気が付いた彼女が笑みを浮かべて歩み寄ってきて、図書館にある勉強スペースで、僕は彼女に古典を教えて、彼女は僕に教え方を教えてくれる。

今からなら閉館時間まであと一時間ある。本屋では結局お互いに名乗ることを忘れてしまっていたから、まず教えるのは僕の名前で、教わるのは彼女の名前だ。


2015.02.01

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