君と僕の夏の日
※年齢操作してます
「スピアーの群れ?」
それは偶然だった。
「ゴースト、ナイトヘッド!」
見つけたスピアーの群れを追い払うと、驚いた表情を浮かべる少女がそこには立っていて、目をパチクリさせながら僕を見る。
少女は驚く程白い肌で、髪が風に靡いていて、桃色のワンピースが特徴的な少女は僕に駆け寄ると口を開く。
「ありがとうございました!」
はきはきした声で言うものだから少し驚きつつも、反射的に「いいえ。大丈夫かい?」と返せばにっこり笑った。可愛らしい女の子だ。
「怖かっただろう?」
「ううん」
「え?」
「あ、怖かったです。でも、スピアーを怒らせちゃったのは私だから……」
謝らなきゃ、と呟く。
「優しいね」
「お兄さんも優しいです!」
話を聞けば、少女は両親と旅行中らしく、随分と遠くからエンジュシティにやってきたそうだ。今日は初めて見るエンジュシティに興奮して一人勝手に飛び出してきてしまったらしい。御両親に怒られてしまうと少し苦笑いで話していた。
泊まっている宿まで案内してあげると、御両親に見つかって叱られていた。僕にも謝罪とお礼を言われたけれど、大したことはしていないと言ってその場から去ろうとすると、後ろから「ありがとうございました!」と元気よく言われた。
それが、僕と彼女が出会った暑い夏の日のことだった。
「マツバさん、マツバさん! 見てください! こんなにたくさんゴースがいます!」
「うん。そうだね。この辺は多いんだ」
「ゴーストもいますね!」
「ナマエちゃんはポケモンに詳しいね」
「好きなんです!」
少女の名前はナマエ。彼女の白い肌に似合う名前だと思った。ナマエちゃんはポケモンのことが大好きらしく、自分で勉強しているらしい。いつかパートナーと一緒に旅に出るのが夢なんだそうだ。
「マツバさんもゴーストとお友達でしたよね」
「うん。いつも力になってくれるよ」
とても丁寧な子で、その歳にして敬語を使えると言うのは珍しい。けれど、とても子供らしい雰囲気を持っている子だった。話す内容は大したことない。昨日の夕飯は好きな料理だったとか、嫌いな野菜を残して怒られたとか、見かけたポケモンを追いかけてしまい怒られたとか、決して愚痴というわけではないけれど自分の失敗談を楽しそうに話してくれる。
特にポケモンの話をすると、とても嬉しそうに聞いてくれた。自分が話す時も一番楽しそうに話してくれた。
「今年の誕生日に、ポケモンのタマゴをもらえるんです」
「へえ。何のタマゴ?」
「お父さんとお母さんに内緒っていわれちゃいました」
「そうなんだ」
とても嬉しそうに、楽しそうに、満面の笑みで話してくれる。
「タマゴをかえして、ポケモンとなかよくなって、一緒に旅をして、いろんなポケモンと出会いたいんです」
「ナマエちゃんなら全部のポケモンと出会えるかもしれないね」
「ホウオウにも会えますか!?」
「えっ……」
驚いた。こんな小さな子が、ホウオウを知っていることも、会いたいと思っていることも。
「どうだろう……ホウオウは伝説のポケモンだから」
「きっと会えます。信じていれば夢はいつか叶うって、お祖母ちゃんがいってました」
会えるかも分からないし、今生きているのかも、ましてや本当に存在しているのかも分からない伝説のポケモンに、きっと会えると元気よく言えるのは子供ならではのものだろう。けれど、僕はそれに元気を与えられた気がした。
こんな小さな女の子が会えると信じて疑っていないのに、僕が会えないかもしれないと思っていてどうするんだ。
「ナマエちゃんはホウオウに会いたいんだね」
「マツバさんが会いたいんですよね?」
「え?」
「朝、面白い人がそういってました。その人はスイクンに会うためにいろいろ調べているっていっていて……」
ああ、彼か。
「マツバさんが会ったら、どんなポケモンだったか教えてくださいね」
「僕じゃなくて別の人が会ってしまったら?」
「いいなあって思います」
「じゃあ、ナマエちゃんが会ったら?」
少女は少し考えた後、パッと顔を上げて言葉を放つ。
「マツバさんに、ホウオウはいました。元気でしたって教えます!」
ゲットするわけじゃないんだ。欲のない子だな。
「楽しみですね! ホウオウに会えるの!」
まだ会えるって決まったわけじゃないのに。自分のことのように嬉しそうにするから本当に会えるんじゃないかって思えてくる。
その翌日に、彼女――ナマエちゃんは御両親と共に帰って行った。帰る前に挨拶をしに来てくれた時、御両親に聞いたところ、この旅行でエンジュに一番長くいたそうで、毎日のようにナマエちゃんは僕と会っていたらしい。世話をかけたと頭を下げられてしまった。
僕だって別に大人じゃない。まだまだ子供で、修行中のトレーナーだ。
最後にナマエちゃんは、僕にお守りだと言って石をくれた。僕は石好きではないから何の石なのか分からなかったけれど、何でも彼女の故郷で見かける石なんだそうだ。見ると少し不思議な雰囲気を纏う、幻想的な色合いをしている。
ありがとう、と伝えるとやっぱり嬉しそうに笑った。
* * *
茹だる様な暑さの中、スピアーの群れを見つけた。
「ゲンガー、シャドーボール!」
もしスピアーが町の人に危害を加えたら大変だ。そう思い追い払うと、健康的な肌で長い髪が風に靡いていて、驚いた表情でこちらを見る女の子がいた。
「大丈夫かい?」
「はい。ありがとうございます! マツバさん」
「え?」
2014.08.13
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