ポケモン短編 | ナノ
なんて無謀な恋

※現パロ注意


私が小学生の頃、近所のお兄さんが高校生になった。

真新しい制服がやけに似合わないお兄さんは、ボロボロになったランドセルを背負う私を見てニッと笑う。くしゃくしゃと無遠慮に撫でられた髪は、折角整えたと言うのにボサボサになってしまった。それなのに嬉しく思ったのを覚えている。


それから数年後、私も彼と同じ学校に通うことになって、真新しい制服に身を包み、鏡の前で私は思わず呟いた。

「似合わない……」

近所のお兄さんはとっくに卒業して、現在大学に通っている。大学は制服がないから少し羨ましい。自分に似合わない制服は着ていても楽しくないから。

「いってきます」

朝食はとっくに食べ終え、時間も余裕がある。この時間に顔を合わせることは無くなったが、今でも玄関を出る時は少しドキドキしてしまう。扉を開けてもやはりそこに彼はいないのだけれど。

大学生は時間に余裕があるのか、はたまた彼がただ朝起きられないだけなのか、或いはサボりか。私の予想では二番目と三番目だ。

「ナマエじゃねえか。久しぶりだな」

「オーバ。またデンジを迎えに来たの?」

「今日は朝からだって言ってんのにアイツまだ起きてねえんだよ……ったく、世話が焼けるぜ」

ならいっそ見放してしまえばいいのに。起きられないのは自己責任だ。

「お前も高校生かー。初めて会った時はこんな小さな子供だったのに」

「何年前の話よ……」

小学生の時に私がここに越してきて、隣の家に挨拶をしに行く親に着いて行ったところ、出会ったのが“近所のお兄さん”である。そんな彼の幼馴染が、今目の前で私の身長がこのくらいだったと示している男だ。

「ナマエ、背伸びたなあ」

「ほんと?」

「おー。女子にしては身長ある方だろ?」

「多分」

小学生の時から思っていた。高校生になった彼らは背が高くて大きくて、酷く遠い存在に思えたのだ。私は少しでも二人に近付きたくて、毎日牛乳を飲んでストレッチをして早寝早起きを心掛けた。

結果、女子高校生にしては少し背が高くなり過ぎた気もする。

「おい、オーバ。お前電話かけすぎ」

「お前が起きないからだろ!」

玄関から出てきた彼が、オーバに文句を言いながら大きな欠伸をする。こちらまで眠くなってきそうだ。

「お、ナマエ。久しぶりだな」

「春休みにも会ってる」

「そうだったか?」

「デンジはバイト以外で外にあんまり出ないからな。昨日もゲームしてただろ?」

「うるせー」

どんなに背が伸びても二人は大きい。前よりずっと近いはずなのに、年齢が縮むことはないと思うと遠くに感じてしまう。ぼーっと二人を見ていると、それに気付いたデンジがニッと笑って、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「お前、その制服似合わねえな」

ククッ……と笑うデンジの腕を払いのける。似合わないのは自分が一番よく分かってるのに。あとその言葉をそっくりそのまま五年前のデンジに言ってやりたい。

「髪がくしゃくしゃになる!」

「気にすんなよ。どうせ風でボサボサになるだろ」

「それでもちゃんと整えてるんだから!」

「おー、こわっ」

全く怖がってないくせに。

「デンジ、そろそろ行かねえと遅刻する」

「じゃあ行くか」

二人は私にじゃあなと言って、私とは別の方……駅の方へと歩いて行った。

例えばの話だけれど、私と彼らが同い年だったら彼らの隣を歩くことができたのだろうか。

正直言って、幼馴染とは言え小学校から大学まで同じところに通っている二人は気持ち悪いが、仲が良いのか悪いのかよく分からない二人は私にとって一種の憧れのような人達だった。

知らない街に来て馴染めない私に絡んできた時は怖かったけれど。隣の家に住んでいる人だと分かってからは挨拶をするようになり、結構親しくなってきていると思う。名前も呼び捨てで呼ぶ仲だ。

けれど、どう足掻いたって私と二人の年齢差を埋めることはできない。私が小学生の時に彼らは高校生になって、私が高校生になった時、彼らは大学生。その距離が遠く感じてしまうのは仕方ないと思う。

「あー……髪ぐしゃぐしゃ……」

顔が熱い。高校生になったのに、私は未だ彼に頭を撫でられるのが好きらしい。くしゃくしゃになると言いながら、会ったらそれを期待してしまうのだ。


2014.04.10

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -