ポケモン短編 | ナノ
たった一枚の無防備な姿

「あ、デンジいる?」

「ジムリーダーなら、奥で昼寝してますよ」

そう言ったジムトレーナーの人は、苦笑いを浮かべた。


仕事もせずに昼寝とはジムリーダーとしてどうなんだ。せっせと働いてくれるジムトレーナーのおかげでこのジムは成り立っているんじゃないだろうか。

「ちょっと、デンジ!」

そう言いながら奥にある休憩室にノックもせず入れば、そこにはスヤスヤと気持ち良さそうに眠るレントラーと最近産まれたと言っていたコリンクがいた。

なんて可愛い寝顔だろう。まるで天使だ。ふわふわの毛並を持つレントラーに、小さく丸まっているコリンク。これはダメだ。胸がドキドキしてくる。可愛すぎる。

見てみれば、レントラーの身体に頭を乗せて眠っているデンジの姿があった。まさかいつもこんな風に昼寝をしているんじゃないだろうな。羨ましい。

「どうしよう……」

デンジはともかく、レントラー達を起こしてしまうのは申し訳ない。折角気持ち良さそうに眠っているのだし、この二匹はそのままでいてもらいたい。デンジはともかく。

デンジだけを起こす方法は無いだろうか。

いや、その前に、写真を撮ってもいいだろうか。

可愛い寝顔のレントラーとコリンクを偶然持っていたカメラでいっぱい写真を撮りたい。軽くデンジが邪魔だけれど、写真を撮りたい。

許可なく撮ったらデンジにあれこれ言われそうな気がする。それはかなり面倒だ。でもデンジだけを起こすのなんて私には出来ないし、起こして写真を撮りたいと申し出ても断られてしまいそう。

どうしよう。勝手に撮って、シャッター音で起きちゃって、言い訳も出来ない自分が容易に想像できる。一回のシャッター音では目覚めなくても、私はそれ程器用じゃないしぶれる可能性があるから、絶対何度もシャッターを切ることになるだろう。カシャカシャ音がしていたら、デンジはともかくポケモン達は起きてしまいそうだ。

しかし今目の前には可愛い可愛いレントラーとコリンクが天使のような顔で眠っていて、これ以上ないシャッターチャンス。

たった一度きり、シャッターを切ってうまく撮れるだろうか。不器用な私がある程度ぼやけたりぶれたりするのは仕方ないとして、ポケモン達だけでもうまく撮れれば問題無い。落ち着いてシャッターを押せば大丈夫だ。

静かに深呼吸をして、カメラを構える。安価で買ったデジタルカメラだけれど、それなりに使ってきたものだ。操作は慣れてる。

角度、距離、ピント、全てを確認して、シャッターを切った。

「ふう……」

変な汗が出た気がするけれど、うまく撮れたような気がする。

保存した画像を確かめると、私にしては上出来だった。これはパソコンにデータを移してプリントアウトした後にラミネート加工を施しカードケースに入れておかねば。

偶然、と言うかほぼ必然的にではあるのだけれど、眠ったデンジも写っている。まあ、カメラを構えた位置的にデンジがど真ん中にきてしまうのだけれど。

こうやって眠っていると整った顔だな、と改めて思う。何だか気持ち悪い程に整った顔だ。しかしまあ、寝顔は可愛い。何度も見たことある寝顔だけれど、何度見ても可愛い。恋人としての贔屓と言うか、どちらかと言えば惚れてしまったが故の感情なのだけど。

「ナマエにしてはうまく撮れてるな」

「そうでしょう……え?」

急に後ろから声が聞こえて、振り返る。そこには気怠そうなデンジが立っていて、私の手の中にあるカメラの画面を見つめていた。

「お、起きて……!? いつから!?」

「ナマエがドア開けて大きな声で名前呼びながら入って来た時から」

「狸寝入りじゃないの!」

「あんだけ大きな声で名前呼べば起きるだろ。普通」

寝顔が可愛いなんて思った私が馬鹿みたいだ。しかも起きてしまうとか何とか悩んだのも馬鹿みたいだ。

「レントラーとコリンクはまだ寝てるけどな。小言でも言われるかと思って寝たふりしてたのに、まさか……くくっ」

笑い始めやがった。そりゃあ、傍から見れば私の行動は挙動不審だっただろう。今思えばもう少し違うやり方があったのではないかと冷静にもなる。

「写真を撮るとは……」

肩を震わせて笑う。もういっそ大きな声で笑ってくれ。

「そんなに俺のこと好きなわけ?」

「私が撮りたかったのはレントラーとコリンクの寝顔よ。二匹を画面の中に入れるには真ん中にいるデンジも一緒に写さなきゃいけなかったの」

「何だよ。まるで俺が邪魔だったみたいに言いやがって」

実際そうなのだけど。

でも、デンジが好きなことに変わりない。撮る前は邪魔だったデンジも、撮り終わって見てみれば結局愛しいと感じてしまうのだから。

悔しいから言ってやらないけど。

「それより、その写真寄越せよ」

「自分の写真欲しいの? ナルシストなの?」

「ちげえよ。レントラーとコリンクの写真が欲しい」

私も相当レントラーとコリンクが好きだけれど、彼らのトレーナーであるデンジはまるで親ばかみたいに彼らを愛している。時々嫉妬してしまうくらいだ。

「五百円くらいかな」

「おい、恋人だろ。金取るなよ」

「だって真ん中にデンジが写ってるし」

「好きで写ったわけじゃねえ。それに、そう言うんだったら撮影料取るぞ。許可も取ってないし」

「コリンクのタマゴを孵化させるの、私凄く手伝ったのに!」

「俺はジムで忙しかった!」

「仕事してないくせに!」

「今お前の方が無職だろ!」

「ポケモントレーナーだもん! お金は稼いでるもん!」

いつの間にか声が大きくなっていたらしく、レントラーとコリンクは目を覚ましていた。コリンクはオロオロと戸惑っていて、レントラーはまたか、といった様子でこちらを見ている。

戸惑っているコリンクがあまりにも可愛くて、写真を撮ろうかと思ったけれどデンジに阻止されてしまった。



たった一枚の無防備な姿


2013.08.13

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