まるで別世界
ふと気付けば、まるで違う世界の人間のような二人がそこにいた。
僕は最近このバトルサブウェイの鉄道員として入社した所謂新人なんだけど、そこそこバトルは強い方だと思っていた。
入社する前に挑戦したバトルトレインは思っていた以上に強者が揃っていて、中でもサブウェイマスターである彼らは特別だとさえ思った。
それ程に強く、それでいて美しくもあると感じた。
暫くして僕は今までしていたアルバイトを辞めて、このバトルサブウェイに就職したいと思うようになった。
入社して数ヵ月、僕は時々ふと思う。
「あのー……もしかしてノボリボスとナマエさんってお付き合いされているんですかね……?」
先輩に聞いてみれば、きょとんとした顔をされた。
「なんや、今頃気付いたん?」
その返答に、やっぱり付き合っているんだと確信した。
ナマエさんも僕の先輩で、珍しい女性の鉄道員だった。特に鉄道が好きとかでは無いらしいけど、ここのトレインでのバトルが好きなんだとか。
見ていればノボリボスやクダリボスと親しげな時があり、気になっていた。
「ボスとナマエさんかぁ……お似合いのカップルだよなぁ……」
二人は職場ではお互い上司と部下の関係を保つようにしているのか、親しげに話しているもイチャイチャしている感じは無かった。
むしろ僕には、本当に僕と同じ世界の人間なのか……? と疑うくらい上品で、思わず二人に見惚れてしまう。
数日して、僕はナマエさんと仕事する機会に恵まれた。
「私、バトル好きなんだけどあんまり強くないのよね……」
そう言いながら苦笑いを浮かべるナマエさんは、その後は楽しそうに笑う。
「僕もバトル好きですけど、あまり強くないんです」
ノボリボスの前とは違って、無邪気な笑顔を見せるナマエさん。ボスの前ではあんなに大人な雰囲気なのに。
「あの……ナマエさんって……ノボリボスと、付き合ってます、よね?」
どさくさに紛れて聞いてみる。チラっとナマエさんを見てみると、そこには顔を真っ赤にしたナマエさんがいた。
「なっ……なななっ……何でっ!?」
今まで見たこともないような慌てっぷりに驚く。
「いや……そうなのかなぁって思って……」
「バレないようにしてたのにっ……!」
「バレバレでしたよ?」
「なんだと……!?」
真っ赤な顔を両手で包み込むと、落ち着く為に一つ息を吐く。
「他の皆には内緒、ね?」
「は、はいっ……」
もうクラウドさんにはバレてますよ。とは敢えて言わないでおこう。
「仕事とプライベートは別けるって決めてるのに、あんまりできてないのかなぁ……」
「プライベート……?」
「私だって女の子ですから、思いっきり笑ってデートとかしたいじゃない?」
「あぁ……なるほど」
「でも相手があのボスだから、デートするも何も時間が無くて……」
そう言うナマエさんは、確かに女の子の顔をしていた。恋する乙女とはこういう人のことを言うのだろうか。
今まで大人っぽいとかカッコいいとか思っていた分、こんな一面を見れて少し安心する。
その後の仕事は順調に進み、ナマエさんはノボリボスに報告書を出す時にはもういつもの姿になっていた。
ナマエさんと会話を交わすノボリボスは、普段より少し表情が柔らかい気がする。
いつもは鋭いその目も、どこか優しいような気がした。
僕が二人をじぃっと見ていれば、それにノボリボスが気付いたようでこちらを見てきてドキッとする。
もし誤解されたらどうしよう……! 僕は変な意味で見ていたわけじゃないんですよ!
そんな風に内心慌てていれば、ノボリボスが口を動かした。声は出ておらず、読唇術なんて出来ない僕は普段使わない頭をフル回転させる。
「シークレット……?」
もう一度ノボリボスを見れば、こっそり人差し指を口元に持っていき、小さく微笑んだ。
まるで別世界(だけどそれは秘密を愉しんでいるかのようで)
end
あとがき
鉄道員視点を書きたくなって、そうしたら突然ネタが降ってきたので頑張って書いてみた。
ノボリ夢と表記しているわりには夢主とノボリさんの会話が無いと言う。
2012.09.06
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