雪が積もる下で
朝に目が覚めて、カーテンを勢いよく開けると、そこには真っ白な世界が広がっていた。
「…どおりで寒いと思った」
今もなお、降り続く白いそれは、静かに落ちていっては消えてしまう。私はとりあえず窓から離れた。
完全防寒で家を出て、目的地へと向かう。普通のそれなら止まっていたかもしれないが、生憎地下にあるものだから、きっといつも通りの風景が広がっているだろう。
そう思いながら、真っ白なそれに足跡をつけて、目的地にやってきた。
中に入ればやはりと言うべきか、いつもと同じ風景が広がる。むしろ、いつもより人が多いような気もした。
途中ジャッジくんや部下の人達と挨拶をかわしつつ、目的地の更に目的の場所へと向かった。
事務室にやってくると、目的の人物はそこにいた。黒を纏い、真剣な表情で仕事をこなす長身の男。
「ナマエ…?」
「おはよう、ノボリ」
一応、私の恋人である彼は、このバトルサブウェイのマスターで、多忙な人だ。ただのトレーナーである私は、たまにこうして顔を出す。
と言っても、仕事に就いていない私はバトルで稼がなければいけないし、たまにしているアルバイトも収入がいいわけでもない。
つまりは、ニートと言うか、暇人と言うか、こんな忙しい仕事をしている彼には本当に申し訳ないくらいなんだけれど。
「おはようございます。今日はどうしました?」
「んー…雪だったから?」
「は……?」
きょとん、とするノボリは首を傾げた。
「起きたら雪でさ、寒いじゃない? 暖房とかつければいいんだけど…何だか無性にノボリに会いたくなっちゃって」
これは私の我儘だから、今すぐにでも追い出してくれて構わないのだけどね。
「そう言えば、わたくしがここに来る時も降っていましたね…まだそんなに積もってはいなかったのですが…」
「もう結構積もってるよ。ノボリは朝早いもんね」
「今日が早番だっただけですよ」
追い出そうとしないところを見ると、今はそこまで忙しくないのだろうか。
「それより理由が何であれ、ナマエがわたくしに会いに来てくださったことがとても嬉しゅうございます」
少し微笑みながらそう言うもんだから、思わず顔を赤くしてしまった。彼は天然タラシの気があるんじゃなかろうか。
「ここは暖房もストーブもついていますから、少し温まっていくといいですよ」
「ありがとう」
事務室にあったソファーに腰掛けた。何で事務室にソファーがあるんだろう、と思ったけどまぁ気にしない。
「クダリは?」
「先程挑戦者が来たと連絡が入ったので、ダブルトレインの方に」
「なるほど。私はダブルが苦手だから、クダリとは会えなくて寂しいな」
「バトルが終わればクダリも戻って来るでしょう」
「ところで、この事務室でノボリ以外の駅員さんを見かけないんだけど、みんな忙しいの?」
「まだ朝ですから、少し忙しい時間帯ですので…」
こんな時間に来て悪いことしたな。あと少ししたら帰ろう。どうせ暇だけど。
「(帰りに缶コーヒーでも買っていこうかなぁ)」
そんなこと思っていたら、先程までデスクに向かっていたノボリが突然私の隣に腰掛けてきた。
「……」
「……」
「ノボリ、仕事は?」
「少し休憩です」
「そう……」
ノボリにしては珍しい。まだ書類があるみたいなのに。もしかして私が邪魔だとか…いや、もしかしなくても邪魔だろう。
「じゃあそろそろ…」
「ナマエ」
「ん?」
そろそろ帰ろうと腰を浮かせたところ、ノボリに手首を掴まれ名前を呼ばれる。
「…申し訳ないのですが、もうしばらくいてはくれませんか?」
「…どうして?」
「いえ、その…ここ最近会っていませんでしたし、ナマエから会いに来てくださったことが本当に嬉しいのです」
「……」
「それに、ナマエが来てくださってどうにも仕事に身が入らず…」
「なんか、邪魔してすみませんでした」
少し頬を赤らめるノボリに申し訳ない気持ちになった。そういえば、本当に最近全くと言っていい程会っていなかった。彼が忙しいのもあるし、私がフラフラしてるのもある。
「じゃあノボリのご要望通り、もう少しいようかな」
どうせ雪は止んではいないだろうし、外も寒いだろう。
「しばらく、手を繋いでいても…」
「いいよ」
「本当は、抱き締めたいと思っているのですが…」
「実は私も抱き着きたいと思ってた」
「く、口付けは…!」
「それはまた今度ね」
にっこり笑ったら、ノボリは更に顔を赤くした。これは当分仕事できないな。
「(あーでも時間も時間か…)」
きっとそろそろ、彼に連絡が来るだろう。シングルトレインに挑戦者だと。もうそのくらいの時間だ。
「ノボリ、今日泊まりに行っていい?」
「!! も、勿論です!」
「美味しくないかもだけど、ご飯作るね」
雪が積もる下でend
あとがき
珍しく雪降って積もったからつい書いてしまった!!
地下鉄は確か雪とか関係ない、よね…?
地下鉄利用者じゃないので…。
2012.02.29
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