どれほど近付いても届かない
「こちらにいらっしゃったのですか」
「…ノボリさん?」
少し仮眠をして、やっと起きたところに丁度良くやってきたのは自分の上司の双子の兄だった。
「クダリが探していました。何か重要な用事があるのかと思います」
「あぁー…多分お菓子ですよ。クダリさんのお菓子は私が管理しているので」
もうそんな時間か…と腕時計を見る。
「そうでしたか。全く…クダリにも困ったものです。少しお説教しませんと…」
「それでも懲りませんよ、うちのボスは」
くす…と笑うと、ノボリさんのいつもの表情が少し驚いたように見えた。
きっと気のせいだろう、と別の話題を振る。
「ノボリさんは、お仕事いいんですか?」
「はい。少し休憩を、と思いまして」
出来た時間で休憩を取らなければならない、と言うのは実に不便だろう。
私たち部下は、決まった時間に交代で休憩をとっているけれど、サブウェイマスターとなればやっぱり常に忙しいように見える。
うちのボスは常に暇を持て余しているようだけど。
「でも、ボスたちは仲が良いですね」
とっても羨ましいです。そう言ったら、やっぱりノボリさんはどこか驚いた表情を浮かべた。
先程の表情も、気のせいでは無かったのだろうか。
「仲が良い、ですか…」
「…違うんですか?」
「いえ、確かに悪い関係ではありません。わたくしにとってもクダリにとってもお互いが唯一の家族ですし」
「そうですよね」
少しホッと胸を撫で下ろす。
「しかし…兄弟だからこそ、嫉妬してしまうことも多いのですよ」
「…嫉妬?」
それはどういう意味だろう?
「なぜ、クダリの部下なのでございますか…?」
スッと一瞬にして顔を近づけられた。
身長差から、ノボリさんがわざわざ屈んでくれていることに、少し申し訳なく思ってしまう。
「なぜ…と言われましても…私がここに入った時に決まったことですから…」
私にだって、分からないのだ。
一生懸命仕事していたら、なぜかクダリさんのメイドのようなことまでしていた。
午後3時に必ずお菓子を用意したり…そう言えば、暇な時の昼寝の際には膝枕もさせられた。
「(私はメイドか…そんなものになった覚えはないんだけど…)」
そんなことを考えていたら、それが分かったのかノボリさんの表情が無表情からムッとした表情に変化した。
しかしまぁ、なぜこんなにも顔が近いのだろう。
その目は確かに私を見つめているのだ。
「ノボリさん…?」
「あなた様だけなのです。わたくしの微妙な表情の変化を見破れるのは」
「…えっと……」
「あぁ、どうしてあなた様は、クダリの部下なのですか」
どうして、わたくしの部下では無いのですか。
わたくしの部下ならば、もっと近づけると言うのに。
「(しかし…そんな思いもこの方には通じていないのですよね…)」
「(なんで…黙るの…私の顔になんか、ついてるのかな?)」
いつの間にか壁に追いやられ、逃げられない状況になってしまった。
彼は一体何がしたいのだろう。私にはそれがさっぱり分からない。
けれど、彼がそれ以上近づこうとしないのも確かで。
「ノボリさん…どこか具合でも悪…い…」
言いきる前に、近かったノボリさんの顔は私の目の前から退いていた。
「申し訳ありません。困らせるつもりは無かったのです」
「いえ……」
どうして、そんなに悲しい表情をするの。
私は、表情は読めても、思考は読めないんですよ。
「ですから、あなた様は笑っていてくださいまし」
そう言われてしまえば、笑みを浮かべる他ない。
だって他ならない、ノボリさんの願いなのだから。
「ゆっくり休憩してくださいね」
どれほど近付いても届かない(あぁ、どうすればあなた様に近付けるのでしょう)(絶対に敵わない存在)
end
あとがき
書いてて自分が一番よく分からなかった。
オチが決まらなくて珍しく時間かかった割に微妙すぎて…orz
短編整理したら真っ先に削除対象になりそうだ。
2011.12.15
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