風邪以外の熱がある気がして
「さっさと仕事しなさい」
そう言ったら、白を纏った長身の男は急いで出て行った。
私が目を鋭くさせ、低い声を出したのが原因なわけだが。
そこまで怖くしたつもりはない。
幼馴染にそんな態度をされ、少しショックを受けながら、幼馴染で恋人である黒を纏った男を見た。
酷く苦しそうな表情をして、頬を真っ赤にして、息も荒く、汗も大量にかいている。
とりあえずはその黒を脱がすところから始めなければならないようだ。
「ノボリ、上半身だけでも起こせる?」
優しい声音を意識して言えば、ノボリはうっすらと目を開けた。
「この程度の、風邪くらい…問題ありませ…ん…」
「問題ありそうだよ、物凄く」
無理矢理体を起こそうとするノボリを止めて、丁度良かったのでコートを剥いだ。
目の前の彼は、仕事中いきなり倒れたかと思えば高熱を出していて、たまたま休みだった私がクダリに呼ばれたのだ。
必死な声で「ナマエ!! 大変なんだよ!!」と電話越しに言われ、何なんだと思ってみればこの状態。
部下とクダリで何とかここまで運んできたらしい。
「ソファーだと体痛くするでしょ。せめて仮眠室に…」
「一人で大丈夫ですので、ナマエはお帰り下さいまし…」
ゲホッ、ゴホッ、と咳き込むノボリを見て、彼の言葉を敢えて無視して一度部屋から出た。
何も言わずに出て行った私を見て、彼はどう思っただろうか。
仮眠室から毛布を取って戻ってくると、やっぱり辛そうに目を開けた。
「帰ったのでは…」
「帰るわけないでしょう。恋人が風邪なのに。しかも何も言わないで」
帰るわけがない。心配なんだもの。
「とりあえず毛布かけてて。私じゃノボリを仮眠室に連れていけないから、ソファーで我慢してもらうことになるけど」
「いえ…これだけで十分でございます…」
お腹くらいまで毛布をかけると、未だつけっぱなしだった手袋を外そうとした。
それを手伝ってやると、潤んだ目でこちらを見てくるノボリがやけに色っぽくて思わずドキッとしてしまう。
「て、手袋、ここに置いとくね…」
そんなことを考えてる場合ではない。
何か食べさせてから薬を飲ませて、ゆっくり寝させる為に、まずはお粥を作ろうと意気込んだ。
「…それはいいんだけど……」
自分があまり料理が得意ではないことを思い出した。
勿論、一人暮らしな為に簡単なものは作れるものの、人様に食べてもらえるものかと問われれば否定せざるを得ない。
お粥なんて簡単だろう、と思っていたけれど、ただお米を煮ても栄養が偏るのでは…。
「卵とネギと…人参とピーマンと…」
「ぼく、ピーマンは入れてほしくないなぁ」
「でもピーマンは体にいいんだよ…ってクダリ、何してるの?」
ダブルトレインで勝ったから戻ってきた! と笑みを浮かべて言うクダリ。
「ノボリの風邪がうつるかもしれないから、外に出てて?」
「えー!! やだやだやだー! ぼくもノボリのお世話する!」
こちらとしては、何かされても困るから言ったのに、やはり兄弟は大切なものなのか。
そう思ったら強く言えなくて、そんな甘い自分に溜息をついてから口を開いた。
「大人しくしてるなら、いてもいいけど」
そう言ったら嬉しそうに笑った。
簡単に何かを作れるように、小さなキッチンがあってそこを使わせてもらうことにした。
材料と薬を買ってきて、いざ調理開始…と思ったらノボリが元気のない声を出す。
「ナマエ、うつしては申し訳ないので、そろそろお帰りに…」
「馬鹿は風邪ひかないって言うんだよ」
「ナマエは馬鹿ではありません…!」
「はいはい。とにかく寝てて。今お粥作ってるからね」
「ねえナマエー! ぼくピーマンいやって言った!」
「クダリの分は無いから安心して」
そう言ったらブーイングが飛んできた。
なんとかお粥を完成させ、味見をしてまずくないか確認してからノボリの前に差し出した。
取り分けた器とレンゲを持って、ふうふうと息をかけて口元に出せば少し躊躇っている。
「大丈夫、味は保障するよ?」
「い、いえ……」
「あ、顔赤くなってきたね。熱上がった?」
「そうではなくて…」
「ノボリってば恥ずかしいんだ! ナマエに介護されて!」
「クダリっ…!!」
クダリには少しばかり黙ってもらうことにして、もう一度レンゲを口元に出してやる。
すると今度は躊躇いながらもぱく、と食べてくれた。
「美味しゅうございます」
「よかった…」
安心して胸を撫で下ろした。
「後は自分で食べられますので、そろそろ…」
「さっきから思ってたんだけどさ、ノボリ遠慮し過ぎ」
床に膝をついて、出来るだけ目線を合わせようとする。
結果、自分が低くなってしまうのだけれど、今日は気にしない。
「だって私たち、恋人でしょ? 頼ってくれていいんだよ。私だって心配なんだもん」
それに、こういう時ノボリって強がるけど甘えたがりでしょ?
小首を傾げて言えば、図星だったのか少し表情が歪んて、眉間に皺が寄った。
それを人差し指で押すと驚いた顔をする。
「それ食べたら薬飲んで、ゆっくり寝ててね」
そうとだけ伝えると、後ろでじーっとお粥を見つめるクダリを見かねて、もう一つの器によそった。
風邪以外の熱がある気がして(眠りにつく前に、もう少しだけあなたを見ていたいのです)
end
あとがき
とりあえず練習。口調難しい。
敬語と丁寧語? よく分からん。
でもノボリさん好きすぎて辛い←
2011.11.01
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