あまいアメをきみに
ある日、サブウェイに遊びに来てみたら、自分の幼馴染は挑戦者とバトルしていた。
そのバトルも終わった頃、私に気付いた幼馴染の内一人はまだ挑戦者がいるにも関わらず私の方へとやってきてしまったのだ。
「クダリ、まだ挨拶も終わっていないのですからさっさとナマエから離れてくださいまし」
「だってナマエが来てくれたんだよ!?」
「いつも来てるじゃない。ほらクダリ、さっさと挨拶」
大きな子供みたいなクダリの腕を軽く叩いて、ノボリの元へと戻した。
しっかり最後まで挨拶をすると、やはりクダリは先程のようにこちらにやってくる。
飛びつくように抱きしめられると、挑戦者の二人がぽかーん、と口を開けて唖然としていた。
「クダリさんに彼女いたんですね…」
女の子の方がやっと言葉を放った。
「彼女…? 違うよー。ナマエはぼくたちの幼馴染」
「幼馴染…?」
女の子と男の子は顔を見合わせる。
「トウコ様、トウヤ様、改めてご紹介いたします。彼女はわたくし達の幼馴染のナマエと言い、ライモンシティの遊園地の監視員をしています」
「あ、どうも」
ぺこ、と軽く頭を下げる。
すると相手も軽く頭を下げて、それぞれ名乗り出した。
ノボリがさっき名前を言っていたから何となくは分かっていたけれど、女の子の方がトウコちゃんで男の子の方がトウヤくんらしい。
何度かサブウェイに挑戦して、どうやら今日やっと二人とのバトルになったそうだ。
二人ともポケモントレーナーと言うことで、私たちの後輩とも呼べる子たちなわけで。
「…なんか、二人とも可愛いね」
なんだかとっても可愛く見えた。
思えば旅はしていたけれど、ノボリとクダリの二人が私よりも年上だから後輩とこうやって話すのは何となく新鮮な感じがする。
実際は、私よりも年下で、私よりも後に旅立った人との交流もあったけれど。
「えー!! じゃあナマエ、ぼくは? ねえぼくはー?」
「はいはい、クダリも可愛いよ」
そう言ったらノボリが固まった。
「わーい! ナマエ好き好き大好きー!!」
クダリがぎゅーって抱き着いてくる中、固まっているノボリに向かって口を開く。
「…はいはい、ノボリも可愛いよ」
「いえ、わたくしは決して可愛いと言ってほしかったのではなく…」
「あー! ノボリの顔真っ赤だ!」
「クダリ、少し黙ってくださいまし」
そんなやりとりを見ていた後輩二人はやっぱりついていけないみたいで、唖然としていた。
そりゃあそうだ。さっきまで戦って自分たちが敵わなかった相手が一人の幼馴染にこんな気を許しているわけで。
しかも今はまだ二人は勤務中なわけで。
どういう態度をしたらいいか分からないのだろう。
私自身、二人が仕事をしている姿と、こうして自分と話している時の姿のギャップに最初は驚いた。
と言うのも、私が別の地方を旅している間に二人はいつの間にかこのサブウェイマスターになっていたのだ。
「まぁ、驚くのも無理ないよね。でもまた挑戦してやってね?」
そう言ったらハッと我に返って「はい!」なんて元気のいい返事をしてくれた。
そこに他の駅員がやってきて、どうやらノボリとクダリ、別々の挑戦者らしく二人は別の車両へと移って行った。
残されたのは私と後輩のトウコちゃんとトウヤくん。
「あ、あの…どうして二人はあぁなったんですか…?」
余程気になるのか、とうとう聞いてきたトウヤくんは、恐る恐るといった感じの表情をしていた。
「あー…多分ね、私たちが小さい時に、私が二人にアメをあげちゃったからかなぁ…」
私がまだ5歳くらいの時、ノボリが風邪を引いてしまった日のこと。
クダリからノボリの顔が真っ赤だと聞いた私は、まだ何の知識も無く、軽々しく言葉を放つ。
「きのみをとりに行こう!」
「きのみ…?」
私より年上だったけれど、やっぱり子供だったクダリは首を傾げる。
「そう! 真っ赤ってことはやけどかもしれないから、たしか…」
この間本で見た、覚えたての知識を披露しようと必死に思い出す。
「たしか…チーゴのみってやつがやけどをなおす効果があったと思う」
「でもナマエ、このあたりってきのみが無いよ?」
「じゃあきのみがあるところまでとりに行こう」
そして出発したわけだけど、当然迷子になるわ、野生のポケモンに追いかけられるわ、クダリは泣き出すわで結局きのみは手に入らなかった。
「うわあぁぁん!!」
ピーピー泣くクダリに、私も不安を覚えたけれど、このままじゃ帰れないから強く言葉を放つ。
「クダリ! そんなになかないの! 男の子でしょ!」
ギュッとクダリの手を握る。
「だいじょぶ! わたしがいるから!」
その後、パトロールをしていたお巡りさんに見つけられ、無事家に帰えれたのだけれど。
「ノボリ、ごめんね…? きのみとってきてあげられなくて…」
「ごめんね…」
未だ泣いているクダリは凄く心配そうにノボリを見る。
「いいのですよ…それより、二人が無事に帰ってきて良かった」
「うぅ…」
「そうだ、風邪がなおるように、アメあげるね」
ポケットに入っていた、親から貰ったアメを差し出す。
「…でもこれは、」
「いいの! アメよりノボリのが大事だもん! それにこのアメだったらすぐ風邪なんてなおるよ!」
「ふしぎなアメですね」
「あ、ふしぎなアメはポケモンにあげるとレベルが上がるってやつだよね!」
「そうです。よく覚えていましたね」
「前にいっぱいお勉強したんだ!」
そう言ったらノボリに頭を撫でられた。
「あっ…クダリにもアメあげるね。だからもう泣き止んで?」
「うん…ありがと」
そう、あれがもしかしたら原因かもしれない。
元から仲が良かったけれど、外で遊ぶ時に会えたら遊ぶ程度だった。
でもあの時、二人にアメをあげてからと言うもの、外で会えば抱き着いてくるし、たまたま遊びに行かなかった次の日は心配そうな顔で迫って来るし。
「懐かれたのかな、って」
「(多分それだけじゃないと思います…)」
「(絶対アメだけじゃない…アメだけが原因じゃない…)」
「長話しちゃったね…そろそろ二人帰ってくる頃だろうし、トウコちゃんとトウヤくんも一度戻るでしょ?」
「えっ…あ、はい。でもそろそろ帰ってくるって…」
「お二人、さっき行ったばっか…」
トウコちゃんが言い切る前に、猛スピードでこちらにやってくる二つの影が見えた。
「ナマエナマエナマエナマエー!!」
「クダリ! あまり早く走ってはっ…!!」
クダリのタックルにより態勢を崩して近くの柱に頭を打ちつける私。
痛々しい音が鳴り響くと、クダリは「あ…」と呟いた。
「ナマエさん!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
後輩二人がオロオロするのに対し、クダリは「ごめんねぇ?」と謝り、ノボリは血相変えて近寄ってきた。
「ナマエ!? しっかりしてくださいまし!」
「いや…そんな、もうすぐ死ぬ、みたいな…意識まだあるから…」
幸い、打ち所はよかったのか血は出ていないし、強い痛みは後頭部だったからだろう。
とりあえずクダリは後でノボリにしっかり説教されるから私は軽く注意しておくとして、顔を真っ青にする三人をどうしたものか。
「とにかくこれを食べて意識を手離さないようにしてくださいまし」
「ん」
出されたのは包み紙に「ぶどう」と書かれている小さなアメ。
それを口に含んで舌の上で転がす。
「あまい…」
あぁ、甘いなぁ。
あまいアメをきみにend
あとがき
長くてすみません…。
とりあえず口調に慣れる為に書いた。
夢主はイッシュにいる時は遊園地の警備員と言うか監視員してるよ!
2011.10.20
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