呼ばない名前


ずっと大好きだった吹雪くんと最近お付き合いを始めた。付き合い始めてすぐに吹雪くんは私を名前で呼ぶようになった。

特訓を頑張っている吹雪くんに会いに行こうと家を出ようとした時その知らせを聞いた。吹雪くんが事故にあった。何が原因なのかは聞いてない。でも雪崩に巻き込まれたらしい、それだけが騒ぎ出す大人たちの中から私の耳に届いた。なんで、どうして、の前になぜだか敦也の顔が浮かんだ。

「吹雪…くん…。」

いかなきゃ、でもどこに?
会わなきゃ、でもだれに?

はやく吹雪くんのところにいかなきゃ、そう思うのに頭の中で私の知らないワタシが問う。

(吹雪くん?吹雪くんってだぁれ?)
吹雪くんは敦也のお兄ちゃんで私の大好きな人…、
(敦也?敦也ってだぁれ?)
敦也は吹雪くんの弟で…私の…、なに…?

「吹雪くん敦也吹雪くん敦也吹雪くん敦也吹雪くん敦也吹雪くん敦也…吹雪くん…敦也…吹雪くん?…敦也?」

知りたくない、わかりたくない、そう思っても頭に響き渡る声はやんでくれない。違う、そうじゃない、私は…私が好きなのは…っ!

「吹雪くんが目を覚ましたべ!」

聞こえた声にハッっと意識が戻る。いつの間に自分が吹雪くんが運ばれた病院に来ていたのか、どうやって来たのか覚えていない。でもたしかに自分は吹雪くんに会いに来たのだ。

(どっちの吹雪くんに?)

再び響く声に病室に入ろうとしていた足が止まる。うまく呼吸ができない。気づき始めた事実に、認めたくない記憶にどうしようもなく冷や汗が止まらない。

はやく、はやく、吹雪くんに会いたい。押し潰されそうな気持ちでドアを開ければそこには皆に囲まれて笑う吹雪くんの姿。こちらに気づいた吹雪くんが私の名前を呼ぶ。

「朱香。」

そう呼ぶ声が、姿がアイツと重なって忘れた記憶が蘇って涙が零れそうになった。



(敦也が死んだあの日から私は吹雪くんを名前で呼ぶことをやめた。)





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相互記念として馬鹿騒ぎの半袖様に捧げさせて頂きます。










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