その日、俺はいきなり校長室に呼ばれた。何か問題になることなんかしたやろか、と思いつつも道のりを急いだ。
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「失礼しまーす。呼ばれたんすけど、何の用っすか?」
「財前、待っとったで〜。まあ、座り。」
校長室で待っとったんは、校長先生とテニス部顧問謙監督のオサムちゃんやった。
「単刀直入に言うわ。財前、お前には一週間後に東京にある並盛中学校に交換留学に行って欲しいんや。」
……?…何か今、変なこと聞いてまったような…。まさかな、聞き間違えやんな?
「……は?ちょっ、今何ていいました?」
「やから、自分には交換留学に行って欲しいんや!!」
…聞き間違えやない!!?
「待ってや!!何で俺やねん!!他にも暇な奴ぎょーさんおるやろ!!」
「やって、相手さんの学校から来る生徒はテニス部所属の2年生らしいからなあ。やったら、同じ条件の奴と交換した方が何かと都合ええやろ?」
「ふざけんなやっ!!何でそない大事なこと勝手に決めてんねんっ!!」
俺がいきなり言われた内容に理解が出来ずパニックになっとると、今まで黙っとった校長先生が話し始めた。
「向こうの学校の校長とは以前から何かと世話になっとってなあ。さらに親睦を深めるためにも交換留学をしてみてはという話になったんや。色々と世話になってる学校やから断れんくてなあ。あちらさんも優秀な生徒さんを代表に選出してくださったようやし、こっちとしても恥ずかしくない生徒を代表にせんといかんと思ってなあ…。生徒にこないな大人の事情は関係ないんやけど…財前君、ここはひとつこの老いぼれの顔を立てると思って承諾してはくれんか?」
「……校長先生…。」
普段はふざけてる人やと思ってたけど、そんなに真剣に考えてたなんて…。
「俺、行きますわ…。校長先生がそない色々考えてるなんて知らんくて…。俺に出来る事があるんやったらやりますわ。」
「……財前君。君ならそう言ってくれると信じてたよっ!!我が四天宝寺中のお笑い精神を並盛中に伝えるためにも頑張ってくれなあっ!!」
「…はいっ!!」
そんとき俺は知らなかったんや…。
この会話がすべて俺を交換留学に行かせるため、校長先生とオサムちゃんが用意した芝居やったこと…。
そして……
校長先生の演技にすっかり騙された俺の姿を見て、オサムちゃんが必死に笑いを堪えてたなんて…。
I'm yet to know the truth.(私はまだ真実を知らない)