俺の好きな人は俺よりも好きな人がいるようである。
仮にも会話をしていた俺を差し置いて彼は別の人へ笑顔を向けて走り出す。他の先輩たちと会話しているときはそうでもないのに俺と会話をしているときに限って絶対に彼は会話中に彼の人を捜している。
「まい、すうぃぃいとえんじぇる☆こっっっはるーーー!!」
ほら、今だって俺が目の前にいようと見向きもしない。目の前にいた俺よりも10メートル先にいる彼を見つけた瞬間浪速のスピードスターも吃驚の速さで走り出す。それはもう引き止める隙すら無いほどに。
「ウルサいんじゃ!!一氏ボケェッ!!」
「つれないこと言うなや〜こはる〜!!」
遠く彼方に俺の愛しい人が俺よりも愛しく想う人と戯れる声が聞こえる。
「着いてくんなって言うてるやろっ!!」
「そない照れへんでもいいやろ〜こ・は・る☆」
「うざっ(怒)」
目を瞑って考える。彼の事。彼を想う自分の事。ずっと彼が好きだった。一途に誰かを愛することが出来る彼が好きだったし尊敬もしていた。見ているだけで良かったのに、いつからか彼に愛されたいと想うようになった。彼が好きだ。彼を愛したい。彼に愛してほしい。彼が辛いとき側にいたい。彼が嬉しいとき隣で笑っていたい。いつから自分はこんなに貪欲になってしまったのだろう。
それはきっとあのときから―――
夕暮れに染まるコートの中、それは彼がいつも自分ではない愛しい人に対して口癖のように紡いでいた言葉。
「俺、お前のことが好きや。」
“好き”
彼は俺に一言だけ告げて去っていった。いつも彼の人に言うような調子とは違い彼の表情は真剣だった。彼が自分に向けた“好き”。それは何に向ける好き?後輩に向ける好き?
それとも―――
ペチッ
「光―?大丈夫か―?」
目を開けた時広がる愛しい人がいる世界。
「気分悪いんか―?」
「……ユウジ…先輩。」
「顔色悪いで―、ホンマに気分悪いんやったら言いや?保健室連れてったるからな?」
頬に添えられた手から伝わる温かな温度に思考が停止する。この人はいつもそうだ。知らないうちに俺の隣にいる。いつだって俺を見ててくれてる。最初に彼に惹かれたのはいつだっただろう。いつからこんなにも好きになっていたんだろう。いつから気持ちを伝えたいと想うようになったなったのだろう。答えはいらないとでも言うように去っていったこの人にあの時の言葉の意味を尋ねたいと思ったのはいつからだろう。拒否されたらと怯えるようになったのはいったいいつからだったのだろう。相対するように自分の言葉でこの人が笑ってくるたらと思うようになったのはいつからだろう。今、想いを告げたなら彼はどんな顔をするのだろう。
「…ユウジ…先輩…。」
「なんや?」
「……好…き…。」
「……。」
「………。」
「……ホンマに?」
コクン
俺は頷くことしかできない。だってあんまりにも幸せそうに彼が笑うから。