世界が終わり未来が始まる





なあ、光。光はあの瞬間なにを思ったんかな。痛かった?つらかった?泣きたかった?寂しかった?なあ、なんで答えてくれへんの?光…ヒカル…ひかる…。

「…答えてや…光。」

光が死んだ。死因は事故死。道路に飛び出した甥っ子君を庇って車に跳ねられた。即死やったらしい。

光は言っていた。自分には未来が視えるのだと。そのことを告げられたのはダブルスを組んでまだ間もないときだった。



『俺、未来が視えるんです。』


部活終わりに二人で練習している中、光はたしかに俺にそう告げた。最初は何かのネタかと思ったがあまりにも真剣な表情の光にツッコミなんか入れられず『そうなのか』と返すだけで精一杯だった。そう言うとすぐさま光は『信じてないでしょ』と返してきたが『まあ、信じなくてもいいですけど』と笑った。その時の俺は光の言ったことをまったく信じておらず、コイツも冗談言うんやな。くらいにしか思っていなかった。



次の日、光は俺を庇って怪我をした。



光は突然俺の教室に現れた。それまで光が俺をたずねて教室を訪れることなんてなかった。初めてやって来た教室で光は俺を庇って怪我をした。不安定な位置に置かれた花瓶。誰かが寄りかかった衝撃で真下にいた俺に向かって落ちてきた。「危ない!!」そう言われる前に俺は背中を押されていた。後ろからきこえた何かが割れる音。驚き後ろを振り返るとそこには頭から血を流して倒れる光がいた。

光が倒れているのを見て俺は「ああ、庇われたんだ」と思うと同時に昨日の言葉が浮かんだ。『俺、未来が視えるんです。』そう言った光を。

その後、俺は部活をほっぽって光が救急車で運ばれた病院まで走った。病室に入って開口一番に『お前は本当に未来が視えるのか?』と、きいた俺を見て光は笑った。



それからしばらくして俺達は付き合うことになった。



『光が好きだ。』と告げた俺にむかって『夢に視たんで知ってました。俺も謙也さんが好きですよ。』と、そう言って顔を赤くしながら笑ってくれた。

付き合い始めの頃、誰かを庇っては怪我をする光に『なんで未来が視えるのか』そうたずねると光は、

『夢で視るんです。誰かが怪我する未来。大切な人が怪我するのはとても苦しいし悔しい。それが分かっているなら尚更。傷付いて欲しくないって、守りたいって思います。』

そう答えた光にまた俺はたずねる。『なんで庇うのか』と。未来が分かっているなら回避すればいいことだ。光がわざわざ身代わりになることはないはずだ。光は答える。

『俺が視る“未来に起こること”は“誰か”に起こりうる未来なんです。たとえば謙也さんにむかって落ちるはずだった物を落ちないようにします。そうすると謙也さんは怪我をしません。けれど謙也さんが怪我をしなかっただけで、明日か明後日か…半年後か一年後か…そう遠くない未来で“誰か”にむかって必ず落ちてくるんです。その“誰か”は俺にはわかりません。でも確実にその“誰か”は怪我をするんです。だったら俺が怪我をしたほうがいいでしょう?』

そう言って笑った光を見て俺は、顔も知らない“誰か”を助けようとする光を愛しく思った。それと同時に平気で自分を犠牲にする光を悲しく思った。守ってやりたいと、そう思った。



そんな矢先の出来事だった。



その日は珍しく光が甘えたで、自分からデートに誘ってくれたし、キスもしてくれた。甘い一時を過ごしていた俺達だったが、幸せな時間はあっという間にすぎるわけで……帰り際光が言った。『俺、今日夢を視たんです。謙也さんと未来で笑いあってる夢。』寂しそうに呟く光に帰るのが寂しいのだと勘違いした俺は『当たり前や!!明日も明後日も未来も変わらず、ずーっと一緒や!!』と、バカみたいに告げたのだった。



そのすぐ後のことだった。光が事故にあったと告げられたのは。



なあ、光。あの時引き止めてれば、何か変わったのかな?お前の寂しそうな顔をみて、勝手に勘違いした俺は本当にバカだ。気づいてあげられたらよかった。お前が、甥っ子君を助けるために死ぬことを選んだんだって。

「なあ、光。甥っ子君、お前のおかげで助かったんやで。ちゃんと守れたんやで。なあ、光…。」

目を閉じれば浮かんでくる。泣いた顔、怒った顔、驚いた顔、照れた顔、笑った顔。色んな光が浮かんでくる。

「なあ、光。一人は寂しいわ。光も一人は寂しいやろ?」

光が死んだとき俺の世界は死んだ。精神が死んだ俺はもはや死人と同じだ。ただ違うのは体が機能してるいるということだけ。死ぬことなんて怖くない。だって俺には……
「お前が視た未来があるんやから。」

視界が霞む。俺は二回目の死を迎えるようとしている。一回目は精神の死、二回目は体の死。怖くはない。だって俺は死ぬことで光との新しい未来への扉を開くんや。

「ああ、光。迎えに来てくれたんや。なあ、これからはずっと一緒や。新しい未来…二人で幸せになろう?」


謙也は霞んだ視界の中、空へと手を伸ばす。そこには光がいて、未来への扉があるような気がした―――。












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