誕生日の魔法


昨日の夜、謙也さんに告白された。誕生日やから12時ぴったりにメールを送って驚かせてやろうとスタンバイしていた俺にかかってきた電話に逆に驚かされた。一方的に好きだと告げられて電話は切れた。
だから俺はまだ謙也さんにおめでとうを伝えてはいない。直接言ったほうがええんかな、と思うも昨日の電話が謙也さんへと向かえなくする。

“好き”ってなんなんやろう。謙也さんのことは普通に“好き”や。でも俺に向ける謙也さんの“好き”はきっと先輩後輩の“好き”と違う。互いに一緒に過ごした時間は変わらないはずなのに何が謙也さんの気持ちを変えてしまったんやろう。俺と謙也さんの気持ちに何の差ができてしまったんやろう。

一晩考えてしぶしぶ朝練へと向かう。睡眠不足も手伝ってますます足どりが重くなる。部室に入れば誰もおらんかった。きっと既に着替えてコートへ向かったのだろう。……きっと謙也さんも。重い足をなんとか動かしコートへ向かう。

「部長、遅れてすんません。」

「おお、財前遅かったやんか。理由は?」

「……寝坊です。」

「ほー、寝坊した顔には見えへんけどなあ、むしれ寝てない見たいに見えるんやけど?」

本当の理由なんて言えるはずもなく嘘を吐くが部長には何でもお見通しみたいに通じない。

「……はぁ、まあええわ。今日はダブルスの練習やで、はよ行き。」

「……はい。」

何も聞かないでくれる部長に安堵したのもつかの間、一気にどん底に落とされる。ダブルス、それは俺と謙也さんを繋ぐもの。これがなかったらお互い何も関わらずに過ごしてたんやないかって位大切なキッカケ。謙也さんがいるコートへと目を向ける、そこにはいつも通りの謙也さんがいて思わず見つめる。視線に気づいたのか謙也さんと目が合って思わず目線を反らした。

(うわっ、やばいっ!今絶対不自然やった…!)

反らしたままで焦っていると前方から足音。ザッと音を立てて目の前で止まった。誰か、なんて聞かなくてもわかった。

「光遅かったやんか〜!待ちくたびれたで!」

「……うぇ?」

昨日の電話のことで何か言われるんじゃ、と身構えたのに一気に拍子抜けする。まじまじと見つめ返せば首を傾げる謙也さん。その姿はいつもと変わらない。

(何も変わらない…いつも通り……、)

まるで昨日の出来事がなかったかのように。

「さっ!練習しよかっ!」

「あっ、…はい。」

謙也さんの態度を疑問に思いながらも睨む部長が怖かったからモヤモヤを抱えたまま部活に励んだ。

朝練終了後、いち早く着替えを終えて教室へ向かった謙也さんを追って普段より速く着替えて部室を後にする。謙也のを見つけてその背中へと声をかけようと口を開いた、

「……けんっ…、」

「謙也くん誕生日おめでとぉ!」

「えっ、ああ!おおきになー!」

被さるように発せられた見知らぬ女子生徒の声に思わず隠れる。様子を窺えば顔を赤らめる女子生徒に笑顔の謙也さん。

「……なんや、俺が言わなくたって謙也さんは嬉しそうやんか。」



ズキッ



「……きっと昨日のことは何かの間違いや。大体男同士とかありえへんし。キモイっちゅーねん。」

吐き捨てるように呟く。でもありえない、そう思いながらも胸が痛むのはなんでなんやろう。痛みを抱えながら教室へと急いだ。

午前中の授業は寝不足にもかかわらず寝て過ごすことはなかった。いつの間に昼休みになっていたのか友達に声をかけられるまでずっとボーッとしていた。ああ、もう昼休みなんやと周りで弁当を広げ始める友達たちに習って自分も鞄へと手を伸ばした。



ピンポーンパンポーン



『お昼の放送の時間やで!司会はおなじみ忍足謙也がお送りしますー!』

謙也さん……今もっとも自分の頭を悩ませている人。そういや放送委員やったな、と思いながら耳を澄ます。

『んじゃ、いつもの相談コーナーいくで!えっとー、ひとつ目は――……、』

いつもの調子で相談の手紙を読み上げていく謙也さん。やっぱりいつも通り。気にしてるのは俺だけなんやって思ってイヤホンで耳を塞ごうとしたとき−−……、

『んじゃ、これが最後の手紙やで。ゴホンッ……、私は今日誕生日を迎えました。』

耳を塞ごうとしていた手が止まる。

『誕生日を迎えた瞬間に気になる人へ電話で告白しました。しかし、答えを聞く勇気がなく直ぐに電話を切ってしまいました。気まずくなるのが嫌で必死にいつも通りを心がけたのですが、やっぱり相手は気にしてくれているようです。もし、この放送を聞いてくれていたら告白のことは忘れて下さい。いつも通りに接してくれると嬉しいです。』

なんやこれ。まんま謙也さんのことやんか。いつも通りにするのに必死やったなんて全然気づけへんかった。つか、忘れてくれってなんやねん。散々人のこと悩ませといてなんやねんそれ。イライラする。忘れてなかったことにしようとする謙也さんにも、何も気づかなかった自分にも。

『……俺から一言、誕生日やんな?やから、告白された人はおめでとうだけでも言ってやってくれへんか?好きな奴から誕生日祝ってもらえるなんて最高に幸せやん?やから、告白のことは忘れてもそれだけは伝えてやってな。きっとこの子も待ってると思うわ。……、と言うわけで!本日の放送は以上!またなー!』

放送が終わった。いてもたってもいられなくて走り出す。周りの友達が不思議がっていたがそんなことには構っていられない。はやく、はやく…謙也さんに会わなければ、それだけを思って放送室へと急いだ。

「謙也さんっ!」

「ひっ、光っ?!」

鍵を閉めていた謙也さんが驚き振り向いた。
「なっ、なんで…。」

なんで、なんて聞かなくてもわかるだろう。だって自分で言ったんやから。謙也さんが俺に求めた一言。それを言いにここまで走って来たんや。

「……おめでとうございます。」

「えっ?」

「誕生日!おめでとうございますっ!」

呆けている謙也さん。たった一言だけ。だけどそれで謙也さんが幸せだと感じてくれるなら何度だって伝えよう。

「…おおきにな、光。」

幸せそうに笑った顔を見て気づく。今日一日笑っていたと思っていた謙也さんが本当は無理してたんだってこと。だって明らかに違う笑顔。自分がなんでこんなにもイライラ、ムカムカするのかわからなかったけど今の謙也さんを見てわかった。いつも通りが嫌やったんやない、他の誰かとしゃべっているのが嫌やったんやない、俺はきっと本能的に謙也さんが本当は笑っていないことに気づいてた。

「謙也さん…、笑って下さい。」

「…光?」

「イライラするんです、謙也さんが笑わんと。謙也さんには笑ってて欲しいんです。」

思ったことを伝えれば謙也さんの顔がどんどん赤くなっていく。伝えるべきことは伝えた。教室に帰ろうと足を踏み出したところで左手を掴まれる。

「ちょっ、ちょっと待ってや光!そっ、それって期待してもええってことかっ?!」

期待のこもった声が廊下に響く。答えるべき言葉は決まっていた。

「……さあ、誰かさんが忘れろって言いましたんで何のことかわかりませんわ。」

笑いをこらえたまま伝える。硬直してしまった謙也さんに背を向けて走り出す。

慌てた謙也さんが再び告白してくるまであと少し。
そんな謙也さんに俺が思いを伝えるのはあと−−…?



(誕生日の魔法)
(かけられたのはだぁれ?)










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