『まっかなおはなの
となかいさんは
いっつもみんなの
わらいもの
でもそのとしの
くりすますのひ
さんたのおじさん
はいいました。』
「謙也さん、ダサいっスわ。離れて歩いてくれません?」
「おいぃぃっ!何てこと言うんや光!」
「やってそないな赤鼻みっともないっスわ。」
「そこは寒い中待たせてすみません。とか可愛く言うとこやろ!」
「……サムイナカマタセテスミマセン。」
「ちょ、もっと感情込めろや!」
「大体、何歌ってるんスか?」
「何ってクリスマスの歌や!!」
謙也が口ずさんでいたのはクリスマスになれば誰もが耳にするであろう赤鼻で夜道を照らすトナカイの有名な曲だ。勿論光も聞いたことはあるだろう。さながら今の謙也の鼻はその歌に登場するトナカイのようだった。
『くらいよみちは
ぴかぴかの
おまえのはなが
やくにたつのさ』
謙也が続きを歌い始めるのを光は黙って聴いていた。クリスマスは恋人同士ならば年内最後のBIGイベントである。しかし家に幼い甥っ子がいる光は家でクリスマスパーティーをやるので早く帰らなくてはいけない。と、勝手に謙也は思っている。が、実際は謙也の想像とは違いパーティーは25日である明日で、24日のクリスマスイヴである今日は予定はないのである。その事実を知れば謙也は喜ぶのだろうが生憎、今の状況が面白い光は黙っていた。
『いつもないてた
となかいさんは
こよいこそはと
よろこびました。』
謙也が歌い終わったのを見計らって光が話し始める。
「そのトナカイにとってはそう言ってもらったのがプレゼントなんやろうな。」
「?、どういうことや?」
「やから、嬉しかったんでしょ?必要やって言われて。その言葉がプレゼントなんじゃないっスか?」
光は考えこむ謙也の手を掴み走り出す。走りながらも戸惑いの視線を向ける謙也を見て光は悪戯が成功した子供のように笑う。
「寒い中待っててくれた赤鼻のトナカイさんにプレゼントっスわ。クリスマスパーティーは明日なんでしゃーないっスから今日はずーっと一緒にいてあげますよ!」
謙也は驚き目を見開きながらも嬉しそうに笑った。歌の中のトナカイはサンタから“必要だ”と言われて嬉しかったのだろう。目の前の恋人からの思わぬプレゼントに顔がにやける。こちらに背を向けて走る光の顔は赤く染まっているのだろう。その証拠に後ろから見える耳が真っ赤だ。愛しい恋人の背に思わず抱きつく。
「最高のプレゼントっちゅー話やっ!」
(愛しい恋人はサンタクロース。プレゼントはひとつだけ。贈り主は愛しい愛しいトナカイって決まってる。)