痛いのは嫌いでしょ?





***



「なあなあ光!!今日はシチューやで!!色んな肉を入れてみたんや!!光が食べてくれるように頑張って作ったんやで!!」

「…いりません。」

「そんなこと言わんでや、光。…このまま何も食べんと死んでまうで?少しでも食べてや…。」

「……いりません。」

光は徹底して食べ物を摂取しようとはしなかった。決して腹が空いていない訳ではない。むしろ腹は空いていて当然の状態だ。なにしろ光は謙也に捕らえられたあの日以来、水以外のものは口にしていないのだから。しかし光はどんなに謙也が食事をすすめようと決して手をつけなかった。一生ここから出られないのならば死んだほうがいい、とそう思ったからだ。

「なあ光、なにがアカンの?言ってくれなきゃわからんよ。そんなに俺といるのは嫌か?俺は光といれて幸せやのになあ。光は幸せやないん?それとも俺がかまってやれんかったから拗ねてるんか?可愛ええなあ、光。ホンマ可愛ええ。もう離れたりせーへんから、ずっと一緒やからな…。」

光は黙って耳を塞ぎながら謙也が言葉紡ぎ終わるのを待つしかできない。光が耳を塞いだことであきらめたのか謙也は黙った。謙也が黙ったことに安心した光はそっと息を吐いた。

光を黙って見つめていた謙也は突如動き出し光の耳を塞いでいる手を掴んだ。

「なあ、光。そんなに俺の言うこと聞きたくないんか?勝手に耳塞ぐんは構わへんけど、どうなっても知らんで?」

謙也の言葉に光の顔はどんどん青ざめていく。そんな光を見つめながらなおも謙也はしゃべるのを止めない。

「光が俺にどんな態度とろうと構わへんけど、後悔するんは光やで?俺は光が好きやから光自身に何かする気はあらへんよ?でも、いつまでもそないな態度とられると俺、光の大切なもんに何かしてまいそうやなあ…。なあ、光…光は痛いのは嫌いやんな…?」

笑いながら謙也は言う。光は笑っているはずの謙也に恐怖を抱いた。謙也はあの日と全く同じ顔をしている。光を捕らえ、どんなに光が泣こうが絶対に離さないと笑ったあの日と…。光は嫌な汗を感じた…。

「食べますっ!!食べますから!!やからっ…やから…誰も傷つけんで下さい…。」

泣きながら光は謙也が持っていたシチューを受け取った。光が自分の言うことをきいたことに満足した謙也は光の頭を撫でた。

「光が俺の言うこときいてくれて嬉しいわ!!ええ子やな光…。これからも大人しくしててな…。」

光は青ざめた顔でシチューを食べる。数日間まともに食事を取っていなかった光には固形物を飲み込むことは困難だったが謙也への恐れからか光は黙って食べていた。食べているうちに光はあることに気付いた。

(このシチューなんや変な味がする…。酸っぱいような…なんなんやろこの味…。)

「光、どうや?美味いか?」

「…はい。」

「そっかー!!光に気に入ってもらえてめっちゃ嬉しいちゅー話や!!なあなあ、どの肉が一番美味い?」

「…へっ?」

「いったやろー?色んな肉を入れてみたんやって!!んで?どれが一番美味い?」

光には味がよくわからなかった。ある程度の肉は謙也に言われるがまま食べてはみたが、どの肉も筋張っていて酸っぱい味がした。そう、例えるならば柘榴(ザクロ)のような味だった…。

「……よくわかんないっスわ。」

光は正直に答えた。そんな光に謙也は笑みを漏らした。

「そっかー。わからへんかー。役に立たへんなーあいつら。せっかく光が会いたがってたから連れてきてやったんに、誰が誰だかわからへんのやったら意味ないわー。」

光は謙也が言った意味がわからなかった。“連れてきた”確かに謙也はそう言った。しかも、“光が会いたがってた”とも…。光はますます混乱するばかりだった。過去の記憶を辿ってみても謙也の前で誰かに会いたいと口にしたことなど一度も無いはずだ。しかし…と光は思考を巡らせる。謙也の前以外だったら一度だけ…たった一度だけ口に出して会いたいと言ってしまったことがある。だが、あれは無意識に呟いてしまったことでそのとき謙也も居なかったはずだ。

(もしかして謙也さんは聞いていたんか?俺の…自分でも気づかずうちに呟いていた言葉を…。でも考えてみたら謙也さんの帰りが遅くなってきたのもそんくらいやったような…。……いやっ、そんなことない!!そんなことあり得へん!!いくら謙也さんでもそんなこと…!!)

光は背筋が凍るような気分だった。まさかとは思うが最悪の状態を想像せざるはおえない。光は恐怖に震えながらも謙也に尋ねる。

「…謙也…さん……今の…どういう…意味ですか…?…誰を…連れてきたん…?」

「ほら、光言ってたやん。“先輩らに会いたかった”って。ちょうど帰ってきた時でな?聞こえたんや。ホンマは光を誰にも会わせたくないんやけど光の願いやったらしゃーないやん?やけど喋らせるん嫌やったから口きけんようしたんや。光が痛いの嫌いやから優しくしてやったんやで?」

「…嘘…でしょ…?なあ、謙也さんっ!!嘘でしょっ!!嘘って言ってやっ!!」

「光?やから俺聞いたやろ…、



「嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や!!聞きたないっ!!」



…誰の肉が一番うまかった?って。」

(そうや、光知ってるか?中学生が6人行方不明らしいで?)



痛いのは嫌いでしょ?










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