光と別れた後、蔵ノ介は本日から寝泊まりをする寮へと急いでいた。予定していた時間からは大幅に遅れてしまったがまぁ大丈夫だろうと予想して。しかし予想に反して蔵ノ介を待っていたのは残酷な知らせだった。
「は!?満室!!?」
「えぇ。つい先程、急遽研修先がこの地域に変更になった生徒さんがいらっしゃったもので。」
「で、でも自分は初めからここに寄宿予定で……、」
理由を説明されるが、なんとか入寮できるように説得を試みる。
「申し訳ございません。あの、ですがどちらにしろ研修しおりの注意事項にも書いてある通り……、
『各 学生寮への入寮手続きは前日の18時までとする。それ以降の遅刻者に対しては一切、入寮を受け付けない。』
と、いう決まりになってますので。」
研修しおり…、たしかに説明を受けた際にそんな物をもらった。たしかパラ見しただけでじっくりとは読まずにどこかへ放り投げた気がする。どうにも曖昧な記憶だが確かに注意事項にそんな事が書いてあったかもしれない。しかし入寮時間は18時、今の時間は……と、蔵ノ介が時計に目をむけようとした時受け付けに小石川の声が響いた。
「あ、もう20時やんか。」
それはまさに絶望を告げる一言だった。
「あ…、…アウト?」
「あのホームランが効いてしもうたみたいやな。」
今日の自分の失態と一番記憶に焼きついた出来事を思い出してうな垂れる。
気を抜いて遊んでいる場合じゃなかったとか、あそこでボールが飛んでこなければとか、夕食ご馳走になって、ましてやほんのちょっとの好奇心で泣かせてやろうなんて行動を起こさなければとか、大体あの時の目の感覚と何処からともなく聞こえてきた声は何だったんだと色々と思うことはあるが、まず第一にこれからの生活について頭を悩ませる。
数分自己嫌悪に陥ったところでここにいつまでもいても入寮させてくれるわけでもないのでとりあえず本日の寝床を探すために寮を後にしようと立ち上がる。
しかし、なぜか数々の後悔のなかで不思議と光と出会ったことに後悔はなかった。