『魔の紅眼(クレナイ)』―――…

昔誰かが言っていた…。

『お前の“魔の紅眼(あかいひとみ)”には不思議な力が宿っているんだ。それはお前の未来…、王の証だ。』

……うるさい“魔の紅眼”なんて信じちゃいない。本当に使えるかもわからない力。そんなものに期待なんかしてへん。けど、それでも俺は―――…。



***



「ごちそうさまでした―!」

「お粗末さまでした。」

夕飯をご馳走になった蔵ノ介はお茶をもらい座っていた。光が食器を片付けるため台所へ行くとタイミングを見計らったように子供達が蔵ノ介に話しかけてきた。
子供達はテーブルを拭きながら言う。

「ひかる兄ちゃんのメシうまかった?」

「え、あ、うん…。」

「オレたちオサムちゃんが病院に行っている日だけ兄ちゃんとメシを一緒に食べるんだ―。」

「…ふ―ん。」

子供達の言葉を聞きながら台所にいる光へと目をやる。光は子供たちの言うように苦労をしているのかもしれない。だが、蔵ノ介が今日見たのはそんなことは微塵にも感じさせない笑顔だった。



***



「ひかる兄ちゃん、ばいば―い!」

「気をつけてな―。」

帰っていく子供たちをふたりで見送る。手を振る光が気になって横眼で見つめる。視線を感じたのか光が振りむき目があった。

「あ、のさ…その…ごちそうさま、うまかった…です。」

気まずさを誤魔化すために礼を言った蔵ノ介にまさか礼を言われるとは思わなかった光は目を丸くしたがどういたしまして、とほほ笑んだ。

(…あ…今の…)

「蔵ノ介…、頭打ってキャラ変わったんか?」

「違うわ!そういうんやなくて!オレだって人間に礼なんか言いたくないけど…ただ…、」

「ハイ、おみやげ。」

蔵ノ介がまさか人間に礼をいうとは思わなかった小石川はどこからともなく姿を現し失礼なことを言う。小石川へ言い返していると、光が紙袋を取り出し蔵ノ介にむかって差し出した。

「…え、…おかし?」

「うち駄菓子屋なんや。ボールぶつけてしもうたお詫び。よかったらもらって。」

(またや、こいつから感じる不思議な感覚…。オレの顔にキズなんか付けて文句のひとつでも言ってやろうと思ったけど…、)

台所にいた光を見ていた時子供達が言っていたことを思い出す。

「ひかる兄ちゃんはえらいんだ。せんり兄ちゃんがずっと入院してるから家のことも店のことも…、なんか色々全部やってんの。おじちゃんとおばちゃんはいないんだって。ひかる兄ちゃんもどこにいるのか知らないって言ってた。」

「へえ……。」

(人間にもご苦労な奴ってのはいるもんで、同情も兼ねて一応礼を言ったまでや。こういう奴はたいがい“天使側”の人間なんや。だから……、)



ほんの少し優しさを与えてやればすぐに崩れる。



「元気やな。」

「へ?」

「色々大変やって聞いたから。」

「ああ…、アイツらが何かしゃべったんや。……うんまぁ大変って言っちゃえばそうなるけど…、」

(善の心を持ってていつも“ガマン”してる。本当に言いたいことも全部全部良い子ぶって閉じ込めている。だからちょっと内側に入りこめば……、)

「そういうの辛かったりしない?」

「……え?」

蔵ノ介は心の中でニヤリと笑う。人間という生き物は弱くて醜くていくら強気を保っていようともそれはすぐに崩れ去るのだ。

「自分だってやりたいこととかいっぱいあるのに大人の都合で振り回されてさ。たまに…泣きたくなったりしない?」

(簡単に笑顔は崩せる…簡単に…―――)



「まっ、それも俺の人生やし。」



自分の思惑どおりに顔を歪ませると思った蔵ノ介は目の前の少年が浮かべた笑顔に目を見開いた。

(……あれ?“人間学”ではこういう時人間は泣く前兆を見せる傾向があるって習ったのに…!!……こいつ会った時からそうだったけど、なんか読めない…。)

悪魔界のプリンスとして今まで完璧を貫いてきた蔵ノ介は初めての失敗に動揺を隠せない。なんとか少年の笑顔を崩そうとするも一度崩された思考ではいい考えが浮かばず流される。

「やってそんなの気にしてウジウジしたってどうしようもないし。」

「でっ、でも自分だけなんでこんなこと…とか思ったりは……」

せめてもの悪足掻きとしてする反論もなんでもないように笑い飛ばされる。

「まぁ…それは俺の役目みたいなもんやから。人生楽しんだもん勝ち、どうせなら楽しく過ごした方が得やし。もう慣れてるから悲しいとか辛いとかあんま思わへんし…うん、それに俺が泣いて過ごしたところで



俺の目が赤くなるだけ、なにも変わらへんよ。」



ドッ



(……え?)

“紅(クレナイ)は”

(なんだ、誰…)

“知っている”

(何か目が…、視界がなくなって…)

“お前の答えを”

“紅(クレナイ)は”   “知っている”

(見えない、何も)
(深い深い闇の中であいつしか)
(見えない)



『時が来たのです』
『伝説から目覚める時が』



(もしかして…いや…でも、まさか…)



聞こえた声が頭に響く。それが誰の声かなんて蔵ノ介にはわからない。最悪の答えが頭によぎるもなぜか納得したくない自分がいる。

「なあ、そういえばさ…、」

(あ…、視界が戻った…。)

「名前教えてや。」

(こいつが引き戻した…?)

いきなり深い暗闇に落とされたように周りが見えなくなった。なぜ?なんて考えたってわからない。ただ言えるのはその暗闇の中でも目の前の少年の姿が見えたことだけ。いや、目の前の少年しか見えなかった。そして蔵ノ介を暗闇から救い出したのも目の前の少年。それが何を意味するのかなんて今の蔵ノ介には到底理解できなかった。

「近所なんやろ?また会うかもしれんし…、それにもしまた会えたら夕飯食べてってくれてええし……、な?」



ドキッ



動揺するように速い鼓動を打つ自分の心臓を落ち着かせるように言葉へと耳を傾けたが照れたような笑顔をむける光に落ち着かせるどころかさらに心音が速まる。

(なんやコレ?ちょっ…ちょっと!なんなんや!)
(こいつ一体なんなんや!?)

「俺、財前光。」

「…白石蔵ノ介。」

速まる心音の意味なんてわからないまま告げられた名前に返すように自分の名前を教える。人間なんか、そう思いながらも笑う光に興味を惹かれたのは事実で課せられた課題なんて今はすっかり頭の中から抜けてただただ星空の下、笑い合っていた。



“時が来たのです”
“君の紅(クレナイ)が目覚める時が”



この出会いが運命の物語のはじまり。










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