アンダンテ | ナノ




 俺の部屋の風呂を掃除する時の、柳生の鼻歌が好きだ。

 それはそれは美しい旋律を奴は紡ぐ。
 なんという曲なのかは知らない。
 けれど、それを耳にするとひどく落ち着くのだ。
 遠くで微かに聞こえる軽快なメロディーラインを頭の中でなぞりながら、俺はゆっくりと目を閉じる。
 まだ、眠りたく、ない。
 二人きりでいられる貴重な時間。無駄にはしたくない。
 そう思う気持ちとは裏腹に、睡魔は俺の身体を支配した。

 ふわりと、掃除を終えたばかりの柳生の冷たい手が、俺の額に落ちた。

「眠いですか?」
「……んー」
「少し眠ります?」
「……や、」
「構いませんよ。お風呂が沸いたら、起こしてあげますから」

 仁王君、と。
 奴の声が、くちびるが、俺の名を奏でた。


 優しく髪に触れる指先を感じる。
 遠退く意識の中、俺の大好きなメロディーが子守唄に変わった。










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2011年9月26日〜2012年1月7日拍手お礼。
とても短文。実は以前拍手お礼だった『ワンダーランド』と同設定です。
個人的ではありますが、だんまり唯子さんへハッピーバースデー!

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