せんせい、あのね。 | ナノ





※小学校教師千歳×生徒蔵ノ介パラレル
※年齢操作注意


















『ぼくのゆめ
         一ねん二くみ しらいしくらのすけ

 ぼくのゆめは、大きくなったらちとせせんせいとけっこんすることです。
 ちとせせんせいはかっこいいし、せもたかいし、やさしいので大すきです。いもうとのゆかりよりもすきです。
 ぼくはおとこの子だけど、ちとせせんせいとけっこんするためにがんばってかわいくなりたいです。』


 教え子のこの作文を読んだ時、あまりにも可愛かったせいで、職員室にいるにも関わらずつい表情が緩んでしまった。
 自分はとてつもなく不審な人物だったのではないだろうか。慌てて咳払いで誤魔化す。
 大学卒業後間もなくして大阪にあるこの学校に赴任することになった。良い子達に恵まれたおかげでそれなりに教師の形をなぞっている。
 蔵ノ介君はその筆頭だった。
 余りありすぎる身長と黒い肌に少しばかり怖がる生徒もいるだろうなと思っていたのだが、そういったことを何も気にせず寄ってきてくれた一番始めの生徒だ。
 なあせんせー! せんせーってどこのひとなん?
 くまもとって、とおいん? どれくらい?
 せんせー! あのな……。
 彼は勉強も運動もなんでも器用にこなす子だった。
 右手で文字を書いたり箸を持つことだけはどうにも苦手だったようだが、自分も左利きであったので無理矢理矯正するつもりはなかった。よく左利きは芸術家向きだと言われるし。
 そんなクラスの人気者である蔵ノ介君が、結婚したいほど自分のことが好きだと言ってくれるのはただ素直に嬉しいと思った。男の子であっても。
 まあ、返す時のコメントに困ったのは言うまでもないのだが。

 新人教師である自分はそのクラスを二年生まで担当し、別の学校に転任することが決まった。
 やはり初めての教え子というのには愛着があるのでひどく寂しかった。
 ただ、せんせい行かないで、と何人もの生徒が言ってくれただけで自分はこの場所に立つことができて本当に良かったと思ったのだけは覚えている。
 それから何度か違う学校の教壇に立ち、転任を繰り返し、気が付けば十二年の時が経っていた。



  *



 土曜日の昼は散歩するのが当たり前になっていた。
 元より放浪癖のある自分がこうして土日の散策のみにとどめられているのは、間違いなく教え子の支えがあったからだと思う。
 この春、何の因果か俺は大阪に帰ってきた。
 以前教えていた学校の隣町にある小さな小学校で担任をすることになったのだ。
 今度の学年は相当ヤンチャらしい。流石にこの年齢になると高学年を受け持ったこともあるが、苦笑くらいは漏れてしまう。
 自分も相当ヤンチャした時代があったので、ちょっとばかり生徒には覚悟して頂きたいのだが。

 考え事をしていると他に注意が向かないのが昔からの俺の悪い癖だった。
 説明をしよう。
 その時、大の大人が、馬鹿みたいに、転んだ。
 道のド真ん中で荷物をぶちまけるなど、漫画の中の世界だけだと思っていた。情けなさすぎる。
 慌てて上体を起こし、必死に中身を掻き集める。

 その時だった。


「大丈夫ですか?」


 背後から聞こえた声に反射的に振り向くと、そこには目鼻立ちの整った男がしゃがむ俺に目線を合わせるようにして屈んでいた。
 色素の薄いミルクティーブラウンの髪と、切れ長であり睫毛の長い目。男であるが綺麗という言葉の方が似合いそうな二十代であろう青年だった。
 その声と表情だけで、真面目でしっかりした人間なのだと理解できた。
 ――何か、胸騒ぎが、した。

「手伝います」

 青年は俺の目の前に回り、俺が落とした財布や事務的な何かを次々とその腕に収める。

「いや、あの、大丈夫ですけん!」
「遠慮せんでください」

 にこりと笑うその柔らかい笑顔は、どうにも見覚えがあるように思えてならなかった。

「…………あのー」
「はい?」


「どこかで会ったことなかとですか?」


 今時どこでも聞かないような言葉を思わず口にした。
 青年の顔から笑顔が消え、きょとん、とした顔になる。
 全体的に大人っぽい雰囲気を醸し出していたのだが、この表情はきっと年相応のものなのだと思った。二十歳そこそこ、くらいだろうか。
 ……まずい、これではただのナンパではないか。しかも、男が男を。
 一体どう言い訳をすべきだろうか。
 悩んでいた俺はきっと赤くなったり青くなったり、傍から見たらたいそう面白い図であっただろう。目の前の男も吹き出していた。

「……笑わんでも」
「いや、ごめんなさい! あんまりにも変わっておられへんかったから、ちょっと安心してしもうて!」
「……は?」

 ひとしきり笑った彼は、目尻に浮かべた涙(そこまで面白かっただろうか)を拭いながら言う。



「お久しぶりです。……『千歳センセ』」



 瞬間、記憶の片隅にあった教え子の姿がフラッシュバックする。



「……蔵ノ介、君……?」










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2010年9月15日PCサイトブログより、小学校教師千歳×小学生蔵ノ介パラレル。
お知り合いの方とついったーで盛り上がった設定を勝手に書かせて頂きましたすみません……。
いちばん書きたかったのは『いもうとのゆかりよりもすきです』。

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