終末のユメ | ナノ





「もし『地球があと一年で終わる』って言われたら、どうする?」

 二人で向かい合って座る図書室の一角、真面目に勉強をするのにも飽きてしまった俺は暇を潰すべく柳生にそう尋ねた。
 熱心にペンを滑らせていた柳生の手がぴたりと止まる。

「どうしたんですか、突然」

 柳生が顔の角度はそのままで目線だけをこちらに向けてきたので、そんな本を読んだから、と返した。
 そうでしたかと呟いた柳生の口元が緩む。
 上品な、笑顔。

「で、どうしたい? お前なら」

 瞬きをするたび瞼に並ぶ長い睫毛が揺れて、焦げ茶色の瞳がその奥でくるくる動く。
 俺の持つそれとよく似たもの。けれど似て非なるもの。
 全体的にバランスがいいのか、柳生の方が比較的整った顔立ちをしている。

「そうですね……普通に過ごしたいです。残り一年だと言われたところで、これといって特別なことをしたい訳ではないので」
「ふうん」

 予想通りの、柳生らしい答えが返ってきた。
 柳生は、そうだろうな。
 たとえ残り一年だろうが焦らず騒がず、穏やかに過ごすのだろう。
 いつものように登校して、授業を受けて、テニスをして、帰宅するとゆっくり読書をしたりして。
 今までとまったく変わらずに。

「あ、ですが最期の日は家族揃ってお墓参りに行きたいですね」
「はは、ユウトウセイの模範解答じゃ」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「おう、そうしとけ」
「仁王君は? もし一年で終末が訪れると言われたら、どうやって過ごしますか?」

 柳生が、今度はしっかり顔を上げて俺を見た。
 万年筆を握る指は細長く、持ち方まできれいに見えた。

「……俺?」

 常に冷静で落ち着きがある。心に余裕を持っている。
 誰にでも分け隔てなく優しく紳士的。家族の時間を大事にする。
 こんな俺にさえ笑いかけてくれる。
 それらすべてが柳生の長所、魅力。

 そんな柳生を好きになったのに。
 チームメイト、仲間、親友。それだけでも贅沢だと言うのに。

「……旅行とか、したいのう」
「いいですね。ご家族で?」
「いや、一人で。貯金全部使って」
「仁王君らしいですね」



 ああ、どうして人は浅はかで。

 最期の日に隣にいられる権利を、俺は欲張りにも求めてしまうのだろう。





 そんな普通の、週末の話。










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2011年4月25日〜2011年9月26日拍手お礼。
また5ヶ月なんて長い間お世話になって……。
ヒントは伊坂幸太郎『終末のフール』。

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