ここだけの話 | ナノ



 ようやく平和が訪れた頃、双子の天使をベビーベッドに寝かせて一息ついた。ふたつ並んで眠るそっくりな顔。そのうちのひとつが大きな欠伸をして(ちなみにこちらは弟の方だ。この子の方が雅さんに似ている)私も自然に表情が緩む。
 時計の秒針だけが聞こえる部屋で天井を見上げる。
 先程まであれだけ喧しかった彼女が嘘みたいに静かだ。むしろ静かになりすぎて心配してしまうほど。雅さんはいったいどんなイリュージョンを使って彼女を黙らせたのだろう。そして、それ以上に“あの”白石さんをあれだけ(間接的に)暴れさせることのできる千歳君はいったい何者だ。

 ふと思うことがあって、ベッドの上に吊るしたメリー・モビールを回す。
 オルゴールが奏でる子守歌代わりのメロディーが心地良くて思わず目を閉じた。
 きっとこの音色に誰よりも安心しているのは目の前のこの子達ではなく、紛れもない私自身だ。
 仕事を終えて帰宅したとき部屋の奥からこの曲が流れると、ああよかった、彼女は今日もまだ私のところから離れてはいかないのか、と。
 昔からつかみどころのない女性だった。学校内でも外出中でも、ふわりとどこかに消えては私を困らせる人だった。
 心を通じ合わせるようになってからもずっと不安だった。
 彼女はいつか、何も言わずに私の傍からいなくなってしまうのかもしれない。
 そんな彼女を鎖で繋いでおきたくなって私は彼女に指輪を渡したけれど、それでも胸に差した陰りは残ったままだった。
 だから、子どもができたときは、本当に安心したのだ。
 これで彼女は、簡単には私の傍を離れることはできないなと。
 本当に最低かもしれないけれど。
 ドアを開けた時に聞こえるオルゴールの音楽は、私の帰る場所に彼女が存在するという証なのだ。



 未だに自分の妻を疑うなんて、きっと他人からは馬鹿か愚か者にしか見えないだろう。
 それでも私はきっと、幸せだ。
 自分と、愛する妻である雅さんと、私によく似た娘と彼女によく似た息子。それだけのことがとてつもなく幸せだ。
 幸せだからこそ、慣れたくない。慣れてはいけない。
 だから離さないでいられるように、少しの変化にだって気付けるように、きっとこれからも毎日、私は彼女を疑い続ける。



 さて、そろそろ妻が帰ってくる頃だ。
 頑張った彼女へのご褒美に、夕御飯のカレーの下ごしらえだけでも済ませておこうか。










ここだけの話










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『内緒話』で空白だった旦那サイド。

2011.7.3.

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