甘くない休日 | ナノ



 特別なことはしなくていいと比呂士は言った。ただ普段と同じように部屋でのんびりしたいのだ、と。せっかくの誕生日なのにもっと違うことをしなくていいのかと何度も聞いたが奴は引かなかった。
 盛大に祝ってやりたかったが、本人の希望なら仕方がない。デコレーションの控えめなケーキだけ用意して、夕方まで俺の部屋で過ごすことにした。
 それはもう、びっくりするほど普通の過ごし方だった。大きな実力テストを控えていたから午前中は徹底的に勉強し、軽く昼食を摂るために外に出て、映画のDVDを借りて帰って来た。趣味の合わない自分達が何度も話し合って借りたそれは期待外れの出来で、これなら最後まで悩んだもう一本の方にすればよかったとがっかりした。
 あまりにもいつも通りの一日だった。

「……比呂士?」

 ケーキを切り分けて部屋に戻ると、俺が席を外した五分そこらの時間のうちに比呂士は夢の世界に旅立っていた。
 ベッドを背もたれにして体育座りの姿勢のまま寝こけている奴を見て、言葉にしようのない感情が溢れ出す。開きっぱなしの参考書にはいくつも付箋が貼ってあり、ああ、きっと疲れていたんだろうなと思った。
 遠慮なんかじゃない、奴は本当にゆっくりしたかったのだろう。何事にも全力で立ち向かうのが比呂士の美徳だが、奴はブレーキをかけるのが下手くそなのだ。だからうたた寝ができたり、あまり根を詰めすぎるなよと笑って許してもらえる環境が必要だったのだろう。
 馬鹿みたいにまっすぐで不器用な奴だ。
 そんな比呂士が好きなのだと俺は思う。

 持っていたトレイをテーブルに置いて、起こさない程度に比呂士の頭を撫でる。さらさらとした髪から甘いシャンプーの匂いがする。
 おやすみ。
 そう小さく呟いてから、ケーキ皿にかけるラップを探しにもう一度キッチンに向かう。
 教科書の数式も、詰まらない映画も、どれをとってもまるで特別とは感じない。そんな誕生日も悪くないのかもしれない。
 そう思うくらいには、俺は比呂士と過ごす時間をいとおしく感じた。










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丸井君の兄力は偉大。

2014.10.22.

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