氷帝編 | ナノ






  記録者:忍足侑士



うちのテニス部にバカップルが居る。

そのバカップルは、宍戸亮とマネージャーの鳳長子の二人から成る。
それが、ホンマに普通のバカップルやったら別にええねん。あーハイハイまたかいな他所でやれって軽く笑うことも、いっそ堂々と文句を言いに行くことだってできる。
じゃあ何が困ってるかって、アイツ等には自覚がない。
というかそもそも、付き合っているという事実がないらしい。
最初聞いた時は、んなアホなことあるかい、と思ったもんやった。
だって見てみぃ、どっからどう見ても『ラブラブ』以外のどんな言葉で表現できるねん、あの二人。平成のこの時代にやで。部活中でも休憩中でもお構いなしや。何回跡部に「テメエがなんとかしろ」って八つ当たりされたか分からん。そんなん知らんわ、自分部長やろ。絶対俺より発言力あるやん。何で俺やねん。
それでや、本人に聞いてみたらガチやった。正真正銘ただの先輩と後輩やった。
なんでも鳳は、宍戸を純粋に兄貴のように慕っているだけのつもりらしい。長子という可愛くない名前(あくまで本人談)にコンプレックスを持った鳳は、宍戸の付けてくれた「ちよ」というあだ名がめちゃめちゃ嬉しかったらしい。
「わたしって姉しかいませんから、お兄さんってこんな感じなのかなって嬉しくて」って笑った顔はどえらい別嬪さんやったけど、それは今は関係あらへん。
宍戸も宍戸やで。あいつは妙なところで天然やからタチ悪いわ。 
そんな二人やから跡部も扱いにくいんやと思う。恋人同士やったら「公私混同すんな」の一言で終わるっちゅーねん。
ああほら、日吉、気持ちは分からんでもないけど舌打ちはやめとき。行儀悪いわ。

一度、もう鳳にマネージャーを辞めてもらおうかみたいなところまで話が進んだことがある。鳳はそれ以外のところでは非常に優秀やから結局却下の方で意見が固まったけど、だからといって他に画期的な解決策があるわけでもない。
いや……正しく言うとないわけでもないんやけど、これは俺みたいな周りの人間がどうにかできるもんでもない。
必要なのはタイミングと、お互いの考え方なんやと思う。

確かにタチは悪いけど、常識はちゃんと持ってる二人や。
周りの人間は二人を如何に視界に入れまいか、そればっかり考えとるけど。
よう見てみたらええやん。あの二人、結構面白いから。
明らかに相思相愛の二人が、恋愛感情を家族愛か何かと勘違いして一緒におる。二人共ガキやねんて。いい意味で、純粋な子供。
いっそ何かしらのきっかけがあって、急に意識するようになって、そのうちホンマに付き合い始めたらええんやろうなと俺は思う。常識のある二人やから、部活中は“公私混同”をしない選手とマネージャーになれるやろ。
そうしたら今までマイナスの感情しか持ってなかった奴等も、ニヤニヤしながら二人をからかうことになると思う。
ええやん、平和やで。誰も不幸にならんわ。

――さて、どっかにきっかけ、転がってないやろか。
俺が首突っ込んだら間違いなくアカン方向にいくやろうから、お節介はせんけどな。見守るくらいは自由やろ。
先に自覚するのはどっちやろか。考えてみるのもオモロイかもしれん。
そんなことを考えとったら、ベンチに座った跡部が溜め息混じりに呟いた。
“じれってえんだよ、アイツ等”。
概ね異論はなかったんで、せやな、とだけ返しとこうと思う。










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『隅。』はオカンのような忍足侑士を推奨します。

2014.6.8.

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