サンプル1 | ナノ





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 落ち着け、これは何かの悪い夢だ。一度目を閉じて深呼吸をしようじゃないか。次の瞬間には現実に戻っているはずだ。過労死しそうな心臓に言い聞かせるように俺は左胸に手を押さえた。吸った、吐いた、よし。
 そうして目を開けてみたが、やっぱり鏡に映った顔は柳生比呂士のそのものなのだ。
 そうか分かったぞ、俺は階段から落ちた衝撃で頭がおかしくなってしまったのか。すぐ脳外科に行こう。いや、眼科の方だろうか。或いは自分は記憶障害に陥ってしまっただけだろうか。たとえば俺は元より妄想癖があり、それゆえに自分を別の人間だと信じ込んでいただけで、生まれた時から柳生比呂士だった。なるほどそんな気がしてきた。
「……ってんな訳あるかい」
 思わず寒い自己ツッコミもしてしまう。やめてくれ、俺はこれ以上黒歴史を増やすつもりはない。
 ぶつけたらしい頭が痛い。どうやら瘤になっているようだ。無意識にずきりと痛むそこに触れる。
 そもそも、俺はどこに行ってしまったのだろう。こう言うと語弊があるな、“俺の身体”とでもいうべきか。“俺”はここにいる。だったら俺の身体の中には柳生比呂士がいるのだろうか。いやしかしこれが憑依である可能性もあるわけで。だったとしたら俺は完全にお陀仏じゃないか。大丈夫だ、そのセンはない。死んでいたら今頃学校中が大騒ぎのはずだ。
 さて、何故俺は安っぽいファンタジー小説によくある設定みたいなことを真剣に考えているのだろうか。やはり打ちどころが悪かったに違いない。



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