晴天 | ナノ
「時々な、なんで生まれてしまったんじゃろうって、思うことがあるんよ」
まるで『今日の朝食はパンだった』くらいとりとめのないことを話しているかのように彼が言った。
とてもよい天気だった。
「俺が生まれたことでこの世界が何か変化したわけじゃない。たとえば俺がここで死んだとしても、やっぱり何も変わらん」
それで地球が逆回転でもしたら面白いのに、と仁王君が笑う。
冗談ぽく笑った彼の儚げな表情は青い空によく映えた。
太陽と澄んだ空気、古くなった屋上のフェンス、少しだけ伸びた影。
何もかもが完璧な日だ。しかしそこに彼の心はない。彼の心だけが、足りなかった。
「――やぎゅう、」
俺はどうしたらいいかな。
そう言って苦しそうに口角を上げる彼の頭を、撫でた。
瞬間、驚いたように微かに瞳が見開かれる。そしてすぐに普段通りの表情になった。
「……そうですね。では、生きる意味が見つかるまでは生きてみたらどうですか?」
それを彼が自分で見つけたら素敵だと思ったから。
――だから、『あなたが生きていてくれるだけで私にとって意味があることです』とは、まだ言わないでおこうと思う。
今日はやっぱりいい天気だ。
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2013年7月1日〜2013年11月6日拍手お礼。
わたしは仁王をどうしたいんだろう。