リトルビターウィークエンド | ナノ


 たまには外に出掛けてみようか、と柳生の手を引いて、学校とは反対方面に向かう電車に乗った。
 休日の街に向かう電車は人で溢れている。こういう賑やかなのは新鮮だ。
 普段あまり使わない店も片っ端から入る。柳生への誕生日プレゼントを本人と一緒に選ぶのは妙な気分だが、下手なサプライズを仕掛けるよりきっとこちらの方が良い。元々柳生とは好みが合わないのだ。俺が勝手に選ぶより、柳生の欲しいものをあげたいと素直に思う。

 はしゃぎ疲れた頃、たまたま傍にあった喫茶店に二人で入った。静かすぎず、堅苦しくもない雰囲気の良い店だった。

「なんだか、不思議ですね」
「そう?」
「ええ。だって仁王君と二人でお出掛けですよ。なんだかデートみたいで」
「デートじゃろ、実際」
「ふふ、そうですね」

 趣味の良いカップに入ったダージリンを飲みながら柳生が笑った。その様子を見て、あ、と気付く。
 そうだ、これが本来の姿なのだ。
 絵画に残しておきたいほどあまりにも完璧な風景だった。真っ白なテーブルクロス、時々瞬く長い睫毛、砂糖の入っていないストレートの紅茶。柳生は元々、ジャムやらチョコレートやらメープル付きの不細工なホットケーキを好むような甘党ではない。そんなものが欲しいと言い出すのは決まってどちらかの部屋、俺と二人でいる時。奴が甘えたい時だけ。
 いや、違う。“甘えられる時”だけだ。
 なんだかデートみたいだ、と心を躍らせているのは嘘ではないのだろう。実際俺だって少なからず浮かれている。二人で外出なんて普通の恋人らしいことをしているのだから。
 しかし自分達らしいかといえば、答えはノーなのかもしれない。
 外では手を繋ぐことができない。膝枕ができない。堂々と甘えることが、甘やかすことができない。
 そりゃあ、こんな柳生だって格好良いけれど。俺は気の抜けまくったみっともない姿の柳生比呂士だって好きなのだ。

「……プレゼント、買ったら帰ろうか」
「はい」
「それで、帰ったらゆっくりしよう。やっぱり俺等には部屋でごろごろするほうが合っちょる気がする」
「そうですね。私も同じことを考えていました」

 嬉しそうに笑った柳生は、少し隙のある穏やかな表情だった。
 柳生の部屋に帰ったら、奴は俺のために紅茶を淹れてくれるらしい。これはまた口の中が甘くなりそうだぞ、と苦笑いをしながら、俺は目の前のブラックコーヒーを減らす作業に移った。
 こんな週末も、たまにはいい。










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帰ったらまた甘い時間を。
Happy birthday柳生! 今年もやっぱり君が好き!

2013.10.19.

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