裂ける音 | ナノ
パチン。
すっかり味をなくしたチューイングガムが、口の中で割れた。
「……仲良いよな」
「え?」
「ヒロシと仁王」
「あー、そっすね」
だから何だといったような平坦さで、その言葉を口にした。
アイツ等はそれこそ露ほども考えちゃいないだろうが、どこからどう見ても想い合っている二人だった。
始まりこそ無理矢理ダブルスを組まされたようなものだったが、正反対ともいえる二人の組み合わせは絶妙にバランスが良く、当人達がいちばん驚いていたのをよく覚えている。
そのうちダブルスのパートナーであるという枠を超えて、二人は少しずつ絆を深めていった。
箱入り同然に育てられたヒロシにとっては仁王という存在自体が刺激的であったし、他人と慣れ合わない仁王もヒロシには素直に甘えることができた。
惹かれあうのも、時間の問題だったのかもしれない。
パチン。
――タイミングが、良かったのだ。
何かきっかけがあって、それの起こったタイミングがたまたま良かった。ただそれだけのこと。
少しでもずれていたら奴等はきっと今でも友達のままでいたし、それ以下も有り得たかもしれない。
今以外の現実だって存在したはずなのだ。
たとえば、
“アイツの隣にいるのが、奴じゃなくて、”
「――」
パチン。
「赤也」
「はあ」
「お前さ、心の裂ける音って、聞いたことある?」
「……はい?」
パチン。
******
2013年1月24日〜2013年6月30日拍手お礼。
また長いことお世話になっていた……。