冬の日 | ナノ
寒いのは嫌いだが冬は好きだった。
空は澄んでいるし、ほうっと吐いた息は白く舞い上がり幻想的だ。
冷えた指先で頬に触れ目を閉じた。
冬の匂いを運ぶ木枯らしに髪が揺れて、首筋にくすぐったさを覚える。
生きているのだと実感できる。
この感覚がとても好きだ。
「仁王君?」
ふと歩みを止める俺に、少し先を歩いていた柳生が振り向いた。
マフラーに半分隠れた耳は微かに紅く染まっている。
奴もまた、寒さに弱いのかもしれない。
分厚い手袋を身に付けた柳生は俺よりも少しだけ暖かいのだろう。
羨ましいとは思わないし、疎ましくも思わない……が。
「寒いですか?」
「ちぃとな」
「手袋、使いますか」
「そうなったら柳生が寒いじゃろ。いらんよ」
「……でしたら、」
片方ずつ。
そう言って柳生は左手の手袋を貸してくれた。
残った柳生の体温を感じて心がむず痒くなった。
途端、左手だけが熱を帯びる。
――右手が寒い。
呟いたのは独り言。
下心なんてなにもない。
だから、
繋がれた右手は、偶然。
だから俺は、冬が好きなんだ。
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2012年10月25日〜2013年1月23日拍手お礼。
笑っちゃうくらいありがちな幸せのかたち。