嘘吐きの境界線 | ナノ




『好きじゃ』

 目が点になるとは、まさにこういうことなのだと知った。



「……嘘でしょう」
『さあ?』
「あのねえ……」

 電話で次の練習試合のことを話し合っていて、そのうち取りとめのない話になったところまでは良かった。
 そうしたら突然、これだ。
 彼の突飛な発言はいつものことだが、それにしても今回は厄介だと思う。

「ふざけているんですか?」
『何言うちょる。俺はいつだって真剣じゃ』
「やっぱりふざけてるじゃないですか」

 彼はけらけら笑っていたが、毎度神経をすり減らされるこちらの身にもなってほしい。


 仁王君は嘘吐きだ。
 虚言癖というよりは、まさに『嘘吐き』という言葉がしっくりくる。
 いつだってしょうもない嘘をついては周りを困らせて笑うのだ。
 不快にならない程度だからまだ良いとしても、彼の未来を思うと不安になる。本人からすれば余計なお世話だろうけれど。

『なんで信じてくれんの』
「今まで、信じてもらえるような言動をしてきましたか?」
『それはそれ、これはこれじゃろ』
「意味が分かりません」

 そもそも、信じるも何も、私は彼の癖を知っている。
 仁王君は詐欺を仕掛ける時、声のトーンが普段より低くなるのだ。
 きっと彼自身も気付いていない彼の癖だった。



『……ほんまに、好いとうよ。柳生』





 今現在の彼の声のトーンがどうかなんて……そんなこと、知らない。










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2012年8月2日〜2012年10月24日拍手お礼。
嘘か真かを知っているのは彼と、もう一人。

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