あなたと同じ空の色 | ナノ





※柳生が色弱













 彼が見たものが、私にとってはすべてだった。

 まだ幼かった頃、私は、自分が描いた母親の絵に黄緑色で着色したことがあるらしい。それがきっかけで両親は私が色弱であることを知ったそうだ。
 周囲の、私を見る目が変わったのは気のせいではなかったのだと思う。かわいそうな子。病気。きっと私はそう思われていた。私にとってはそれが当たり前であったから、そう言われる理由がまるで分からなかった。それでも周りの人間が私を変に憐れむので、なんとなく、自分はもしかしたら、自分が知らないだけで不幸な人間なのかもしれないと思っていた。



 綺麗な茶髪ですね。
 私が自分から色の話題に触れるのは、もしかしたらあれが初めてだったかもしれない。色彩の少ないらしい私の目で見ても分かるほど鮮やかだった。自分が言う『色』に自信など持てない。それでも口にせずにはいられなかった。
 案の定、間違ったことを言ったらしい私は、“綺麗な茶髪”を持つ彼に不審な目を向けられた。どうしていいか分からず、私はとっさに嘘をついた。その日が曇りであることは私だって知っていた。とても下手くそで、いっそ清々しくなるようなはりぼての言葉だった。
 不思議なことに彼は、私のそういうところを気に入ってくれたようだった。私達はすぐに親しくなった。ほどなくして、彼は私の友人からたいせつな恋人になった。



 彼は、彼の見たものすべてを私に教えてくれた。どこかに花壇を見つけるたび。一番奥のチューリップは赤だとか、右から二番目のパンジーが紫だとか言った。時折、違いが分からない色に遭遇することもあった。そうした時、私は彼の言ったことを信じた。彼が橙色だと言ったものは、私にとっても橙だった。彼が「その服の色、お前によく似合ってる」と言ったから、私の好きな色はモスグリーンになった。彼が教えてくれたから、私は地球上に存在するたくさんの色の存在を知ることができた。私はそのうち、自分を不幸だと思っていた事実を忘れていた。いつのまにか、私はとても幸福な人間になっていた。周りが私をどう見て、どのように思っていてもかまわなかった。



 私は、私として生まれてきてよかったと本当に思っている。彼の本来の髪の色は私には知り得ない。けれど彼の髪色を見紛うことから私達の縁がつながることになった。彼の“赤髪”と、自分の持つ“普通とは違う色覚”は、神様がくれた贈り物であったのだと私は思っている。だから私は、彼の髪が赤いことを知っている今も、茶髪と呼んでしまったことをあえて謝罪するつもりはない。
 今日も私は丸井君と二人、同じ空を見上げて、オレンジ色の夕焼けを知る。

 明日もきっといい天気だ。










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『同じ夕焼け、空の下』に収録していた柳生視点。

2012.6.30.
(発行:2012.3.18.)

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