換金と変貌。

「ちょっと、ジューク」

「…ふぁい?」


私こと佐伯貴未の部屋には現在、
一人の青年がいた。
彼は家族でも友人でもましてや彼氏でもないのだが。

「我が物顔で人の部屋のソファーで昼寝してんじゃないわよ」

「あぁ、すみません…つい窓からの陽光に誘われて」

「猫かあんたは」

収まりきれず放り出していた長い足を床におろし、
やや乱れた髪を手ぐしですいて、スーツを羽織る。
前回まで畏まって接してきていたジュークがなぜこうなったのか。
それは契約直後の出来事だった。

*******************************

−暇な時間をお小遣いに。

この宣伝文句につられたのも間違いはなかった。
いや、あんなバナー見たら誰でもクリックしちゃうでしょうよ。
…まぁそれはさておき。

「ねぇお兄さん」

一瞬うれしそうな顔をしたので、名刺を見て「ジュークさん」と言い直した。
「別にお兄さんとお呼びいただいても構わないんですよ?」
とか何とか言うものだからついには「ジューク」と呼び捨てになった。
…話が前に進まない。
「本当に、私の時間が…お金になるの?」

「…………えぇ。そうです。」

今の間は何だ。
急に深刻な顔になった、彼の説明によるとこうだ。

私が見たサイトに登録した者同士で時間と金銭を交換。
時間を売る側が価格を決定。
買う側は出品された時間の中から選び、担当者にお金を支払う。
売り主は自分の担当者から金銭を受け取る。

売る時間は現在・未来の2択から選べ、
現在ならば急に時間が飛ぶ形になり、
未来を売れば継続した時間を生活できるという。
ちなみに、時間を買う際には担当者からチケットのようなものを渡され、
必要時に破ることでその時間が使えるらしい。

「ねぇジューク、試しに5分、今の時間を売りたいんだけど。」

「5分、ですか。1分から売却できるんですよ?」

1分なんて売っても時間が減ったかわからないじゃない。
そういうと彼はしかめ面をした。な、何だ何だ?

『チッ…めんどくせェ』

舌打ちされた。あと敬語が飛んだ。小声ながら。
実は会話中彼はずっとマニュアルとおぼしき分厚い本を
ずっとぺらぺらせわしなくめくっていたのだが、
先ほどの発言の後、4・5ページめくってから
言葉通り本当にめんどくさそうに
その紙束をアタッシュケースに押し込んだ。


それからというものの、
敬語は元に戻ったのだが、先ほどの調子である。
今も学校から帰ってきたところで、部屋のドアを開けると、
長身(そして質の悪いことに美形)の青年が気持ちよさそうに眠っていたため
悲鳴をあげそうになったのを必死でこらえた。
母さんに気づかれたら彼氏だと大騒ぎされてしまう。
(そしてジュークは間違いなく餌食になる)←

まだ眠たそうにまばたきを繰り返す彼に、
気付かれないよう、そっと手をあわせた。

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