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BGM SEKAI NO OWARI
Missing




「…な…何が、あったの…」


一体ここで何が…


「こ、こんな…こんな事…」


彼女がただひとりぽつんと突っ立ち見つめるのは。


「どこに、行ったの…?」


草原だった場所が暗く荒れた戦地へと変わっていた。
跡地のこの悲惨さが、何もかもを物語っていた。




はっと目が覚めた時、すぐに身体を起こした。
映るのはいつもの部屋で、定位置にある家具といつもと同じ位置から射す太陽の光だった。
朝日に見えるこの光。いつもだったら名の声が開けっ放しのドアから聞こえてくるはずだった。


「……」


聞こえてこないなら、ここではなく自分の家に居るのだろうと思った。
少し軋んだ片腕の音。若干痛みを覚えた片足。それでも気にする事なく動かして床へとついた。


「…おい名!居ねーのか?」


全く感じない気配に少し違和感を覚えた。
なんで居るはずの名が居ないのか。なんでこんなに、重い空気なのか。


「……」


とりあえず部屋中を探す事にした。ここも、ここも、この部屋も。
ドアが閉められた部屋がいくつかあったが、もぬけの殻だった。
違和感の所為だ。だからこんなにも不安なのか。


「……」


身支度をしてすぐにこの家を出た。
いつもの赤いローブを片手に、綺麗な草原と砂利が続いている細道を駆けていった。
駆ける両足は名の家へ向き、そこに居るのだと信じた。そこにきっと弟も居る。
いつもみたいにふたりで自分を待っていると信じた。


「…な、なんだ?」


足は途端に止まった。普段通りの景色で普段通りの道が、途中で終わっていた。
これ以上来るなと言っているように、目には見えない立ちはだかる何かが。


「……」


一体何が起こってる?
そう思った瞬間には、自分の意識が遠のいていた。


次の日も、その次の日も、同じ景色で目が覚める。
起き上がってこの部屋を出て、自分の服を掴んで家を飛び出す。
名の家に向かおうともそれが出来ない。物理的に拒否されている状況が未だに整理出来ない。
そして気付いた時には全く違う土地を歩いている。ここはどこだと尋ねても誰も口をきかない。
灼熱の砂漠を永遠と歩き、太陽の熱で陽炎が漂う目線の光景。


「どこに居んだよ…」


一瞬の出来事が数年のように感じた。
昼から夜へ。この土地からあの裏側へ。湿地を抜けて島を越え、国境よりも遠くへ。
錬成では成しえない何か。


「……」


この時気付かなかった。
空の色が段々と、暗くなってきていた事に。


また目が覚めた日の早朝、薄っすらと瞼を開けていくと横にある窓の外はいつもより濃い灰色に見えた。
やっと気付いたのは不覚だった。1番最初に感じていたあの違和感がこれに繋がるような気がした。
もう何度目の今日の朝で、何度目の人探しをするつもりなのだろうか。


「…ん?」


片手は1枚の写真を握っていた。
いつの間に、と思いながら身体を起こして写真を見つめる。


「……」


いつ撮ったのか分からない。だがそこにはちゃんと居る。
自分とその隣に居る名。弟も居る。
みんな笑っていると思っていた。反射で白く光ってちょうど見えなかった自分の顔など関係なかった。


「……」


写真をベッドに置いて、毎回のように床へと足をつく。そして窓に背を向けた状態で腰を上げた。
太陽光が薄っすらとトーンを低くした時、ふと振り返った。
また同じ事の繰り返しだと思いながらこのループから抜け出す方法すらも考える。
だが今日は少し違うようだった。いつもより暗い空となんの気配もしない室内と、そして遠くから歩いてくる男ら。


「…」


誰だ?…この一言に尽きた。
今までの夢に一切出てこなかった登場人物。


「…」


ひとつ瞬きをした瞬間、一気に空気が変わった。
今さっきまで汚れのない壁や家具、そしてこの家自体が、廃墟のように廃れていた。
外の景色も荒れ焦げた跡のように。


「一体どうなってんだよ…」


表情や態度には出さなかった。
だが視線を落として写真に焦点を合わせると、ひとりだけ何も笑っていなかった。
…自分だけ、何も笑っちゃいなかったんだ。



…何回同じ夢を見せられている?
一体全体、何回あの場所を彷徨えばいい。


「ちょっと!」
「…っ」


声に少し驚き、ビクッと心臓の鼓動が身体を揺らす。
今までの期間ずっと聞いていなかった名の声にはっとして、ガバッと起き上がった。


「…ど、どうしたの?」


やっぱり夢だった。
1日、いや数時間。それが数年に感じた。


「……」


まだ寝ぼけている頭。
薄暗い空に若干嫌な予感を感じたが、横目に映っている名の姿は本物だと思った。


「ねえ、体調悪い?」


そう言われたが何も答えられなかった。
空は薄暗いなんてものじゃないと思った。


「…なあ」
「ん?」


今までの夢が全て本当なら、あの景色がこれから灰色に変わる。
そして厚い雲に覆われて、次は道なりに続いて数人の男がやってくる。


「…今すぐこっから出ろ」
「はっ?」


いいから出ろ。
強めに言うとうしろの名は黙ったまま部屋から出て行った。
しばらくして裏口のドアが開いて、静かに閉まった音もすぐに聞こえた。
さっきからしていたこの予感は、やっぱり間違いなんかじゃなかった。


「……」


視線を逸らさずにすっと床に立ち上がる。
今までの夢は不可解だと思いつつ、この状況だけは既視感がある。


「……」


…このあとの事も少し覚えている。
なんでこうなったのかも未だに。最後どうなって、どう消えたのかは分からない。
しばらくして帰ってきたのかどうか分からないし、その時名はどう思ったのかも皆目見当がつかない。




…ああそうだ。ようやく思い出した。

今までの夢は全部、今日のこの日に繋がる為のものだったんだ。



嫌がらせのように何度も繰り返していた夢は、全部…全部……




「…な…何が、あったの…」


ここで何が…


「こ、こんな…こんな事…」




もう帰ってこない彼のあとを追って、彼女は家を飛び出した。
今は亡き抜け殻をそのまま放置し、倒壊した家屋と荒野と化した平地を進み、互いが。



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