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「#エロ」のBL小説を読む
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俺は… 暴力が嫌いだ。


「ぃいいざぁああやぁああああ!!!」
「ぉおっと!もう来たの?シズちゃん」


夜の街。通行人を掻い潜り、そして大胆に走り去っていくひとりの男性。
…と、それを追いかける超人並みの人物。
持ち上げた自販機に驚いた周囲の街人は、すぐさま恐れをなしてあちこちへと走り逃げ去っていく。


「殺す殺す殺おおおす!!」


特定の人物。見られているなんて思ってもいなかった。
ちょうどよく現れるなんて事、今までに1回もなかった。


「いいの?そんな事言っちゃって」


なんかひとり逃げない人、居るんだけど。
と言いつつ、逃げない人という人物へ臨也は指を差しつつその方向へ視線を流した。


「ああっ?」


その先へ身体ごと向いた。その瞬間真上へ構えていた自販機がガタッと音を立てた。
自分の両手の力が一瞬抜けたからだ。腕に意識がいかず、ただそこに立っている人物に気を逸らされた。


「お、お前…」
「し…し、静雄…」


恐怖に怯えているのか、それともただただ驚いているのか。
とりあえず言葉が動揺していて普通の状態ではない事だけは分かる。


「名…お前なんでここに居んだよ」


名を見つめたまま自販機をゆっくりと置き、返事を待つ。
静雄の意識が名へ向いたからか、臨也はそのまま立ち去ろうと企てる。


「い、いや…なんていうか…」
「家で待ってるってさっき言ってなかったか」


名と静雄がやりとりしていた内容では確かにそう言っていた。
だがそれよりも、今のこの状況に説明がほしいようだ。


「な、なんか邪魔しちゃったみたいで…」
「いや別にいいって」


なんかもうどうでもいいっつーか、気ぃおさまったし。
そう言いながら名へ歩み寄る。


「ちょ…」
「ん?」


ぶっきらぼうに返すと、それがまた名の何かを煽ってしまったようだった。


「わっわたし先に帰る!」
「はっ?」


すぐさま走り去っていく名の背を見つめたまま、身動き出来なかった。
何故そんなに急いで逃げていくような後ろ姿をしている。今自分は彼女に対して何かしてしまったのだろうか。
正直そこまで深くは考えずに、ただ突っ立つ事しか出来なかった。



名の家に行っても居なかった。
鍵は渡されていた。だから合法だ。勝手に上がっても問題はない。
外から見た時は光は漏れていなかった。さすがにもう寝たなんて事は…と思ったが、何度考えても居なかった。


「どこ行ったんだ…?」


別にストーカーなんかじゃない。ちゃんと関係はある。
心配でそう思っただけだが、あの名の表情を思い返すと…あまり追いかけない方がいいのだろうとも思った。
そう思った瞬間、距離を置かれたと気付いた。




翌日の日中、不良にまたもや絡まれてかなりの出血を負った。
これはいつもの事だ。だから別に気にしていなかったし勝手に止血していくはずだった。


「あ、こんなところで会うなんて奇遇だね」
「あ?」


その傷を見つめながら歩いているところを呼び止められ、振り返った。


「こっちにも来るんだね、って…それどうしたのさ!」
「ああ、まあそこら辺でかすったんだよ」


新羅だ。


「いやかすった程度じゃないでしょそれ!」


痛くないの!と言いながら、新羅は静雄へ駆け寄っていく。


「いや?別に」


ぶっきらぼうに返し、再び歩こうと片足を動かした。


「早く処置を!」
「いいって」


よくないよ、感染症とか!
…と、新羅は1歩も引かなかった。いつもの事なのにどうしてそんなに気にするのかと。
だが色々とめんどくさくなり、溜め息をひとつしつつ、ついていく事にした。




「俺って怖いか」
「なんだよ、藪から棒に」


どうなんだよ。


「100%はいと答えさせていただきます」


てめえ殴っていいか。
冗談でそう言うと、大変申し訳ありませんでした。と即答された。


「っはぁ…」
「んん…?どうしたんだよ…らしくないね」


新羅は再び消毒を施し始めたが、消毒されている本人は斜め上へ視線を動かした。
明後日を見ているような面持ちで話し始める。


「昨日の夜…臨也が居たからまた1発殴ってやろうと思ってさ」


そしたら名が居て、なんつーか…逃げられた。


「逃げられたって…」
「さっさと片付けて行こうと思ってたんだがよ、待ってるって言った本人がそこに居たんだよ」


じゃあ帰るかって話だろ。そこに居んなら一緒に帰りゃ一石二鳥だろ。


「それで?」
「だから、先に帰るって行っちまってよ」


それって、言い方の問題なんじゃないの?


「こっちは普通に話しかけてんだよ」


言い方の問題じゃねえだろ。


「じゃあ…折原くんと喧嘩してる姿が怖かったとか」
「……」


それは…的確なのか?と考えた。
あの顔は怯えてたって事か?俺に?


「名が俺を怖がってたって事か」
「まあ憶測だけど」


もしそうだったらどうすりゃいんだよ。と聞きそうになった。
自分らしくない。こんな事聞いて逆にどうすんだよ。


「…そういや昨日、名ここに来たか」
「え?うん、来たけど」


はっ?と返した。なんともあっさり言われたもんだから、呆気に取られた。


「じゃあなんでそん時言わねんだ」
「無茶言うなよ、伝えるなって言われたんだから」


伝えるな…?なんだそりゃ。


「なんか俺の事言ってたのか」
「どうだろうね。僕は何も知らないよ」


セルティに用があったみたいだしね。


「だったらセルティに聞くしかねえか」
「あんまり追いかけちゃ逆効果だと思うよ」


誤解してんだったら解くしかねえだろうがよ。と言い返すと、そういう男は嫌われるよ。と言われた。
少しイラッとしたのは本音でもあるが、正直そうかもしれないとも思う。
もう1度言うが、ストーカーではない。束縛癖があるわけでもない。至ってノーマルだと思っている。
いや、そう思っている内が1番危ないのだろうか…


「いつも通りでいいと思うけど…」
「そりゃあくまでいつも通りを装えって事か」


装えっていうのもまた違う意味になっちゃうんじゃないかな… と言う新羅は、やはり人の事だからか気楽そうだ。


「……」
「…はい、とりあえずいいよ」


施しが終わり、患部を軽く手でポンとした時インターホンが鳴った。
気付いた新羅はすぐさま返事をしながら腰を上げる。


「ちょっと待ってて」
「ああ」


あ、まだ動かしたらだめだよ。とも言われ、大人しくしておく事にした。


「あ、セルティ!おかえりぃ!って…」


後方から聞こえた新羅の声が、若干戸惑ったように聞こえた。
だから少し身体をうしろへ振り向かせ、そこへと焦点を合わせた。


「こ、こんばんわ…」
「…っ」


その瞬間、名だと気付いた。
名の顔がそのままこちらを覗き、そして…


「えっ」
「いやぁ〜ちょうどよかった」


まさに君の事を話してたとこだったんだよ。と新羅がにこにこして言う。
セルティはそのまま廊下へと進みながら、手元で文章を打つ。


「"名が会いたがってたぞ"」


立ち止まったセルティは、その画面を静雄へ向けていた。
静雄はそれをチラッと読んでは、玄関に突っ立ったままの名へ視線を移す。


「…どうした」
「あ…い、いやあ〜…」


靴を脱いだ名は、静雄の質問に誤魔化しを入れながらも廊下へと踏み入れた。
ただ、目だけは合わない。


「…っていうかそれどうしたの!」
「はっ?」


名が静雄の隣に座りながら、出血の手当てしたあとのそれが目に入る。


「まあ…なんつーか」
「昨日の怪我だ!」


そうだけどそれは今は関係ねえよ。
静雄がそう言うと、名が視線を合わせてきた。


「関係ある。痛そうだから」
「痛くねえよ」


絶対痛いね。それはもう重症だよ。


「貫通してるもん」
「まあ…」


っいやだからこれはどうでもいいって。


「それより」
「昨日のわたしの事でしょ」


名が言葉を被せてきた所為で、静雄は口を閉ざした。
新羅やセルティも黙って視線を送っているだけだ。


「…昨日、バイト先にスマホ忘れちゃって取りに帰ってた」


じゃなきゃ静雄にも連絡取れないから…


「…」
「その時にちょうど静雄が喧嘩してて」


初めてあんな姿見たからびっくりしちゃって。


「…ごめんね」
「いや、んな謝る必要はねえよ」


あいつがそこに居た所為だ。
そう言った静雄の言葉に新羅とセルティは、なんでも折原の所為にしたいんだなとぼやっと思った。


「…」
「…」


ふたりがそのまま口を閉ざすと、セルティが片足を踏み入れた。
そのままふたりの正面にあるソファに腰をかけ、画面に向かって指を急がせる。
新羅はセルティの様子を伺いつつ静雄の隣へと足を進め、腰をおろした。


「"静雄の事が怖いか"」


その問いに、新羅が首を縦に振った。


「"新羅、お前には聞いてない"」


僕も怖いと思ってるよ。なんて言われた。
静雄は、ああ?と何気に反応したが、冗談だとは気付いてはいる。


「やっぱ殴っとくか」
「すみませんでした」


あはは、ふたり共仲いいね。
などと名は笑った。



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