危険分子
グロ表現有 自己判断でお願いします
自分の犯罪係数が上がる理由なんて、知ったこっちゃあなかった。
だって私は極々普通に、地味なくらい普通に、同じ生活を繰り返していただけだ。
「う、動くな!動けばこいつを殺す…!!」
私を後ろから抱え込むようにして銃口を向ける男。そして数メートル前には黒いスーツの男がこれまたこちらに銃口を向けていた。
人間、窮地に立たされると思いの外冷静になれるものである。私の後ろにいる男は恐らく潜在犯で、前にいる男は執行官だろう。
これでも就活生だ。そのくらいの知識はある。
「く、来るなあ…!」
執行官が一歩前へ出た。潜在犯は私のこめかみに銃口を押し付ける。しかしその手は震えていた。
「悪いな、世の中はお前に消えて欲しいんだと」
ビシャァッ
執行官の銃が光を放ったと思えば、視界が赤に染まる。
私を支えてていた潜在犯がいなくなり、私は尻もちをつく。
生ぬるい液体が身体にはねた。瞬きを繰り返して辺りを見ると、肉片がそこかしこに散らばっていた。
これは何のスプラッタ映画だ。確実にR指定じゃないか。
あまりの惨劇に状況を掴めずにいると、執行官は次に私に銃口を向けた。大学の講義で習ったが、潜在犯の犯罪に関わった人間は九割方 犯罪係数が上がり、セラピーを受けることになるそうだ。
勘弁してよ、私はこれでも公務員志望なんだからセラピーを受けてる暇なんてないよ。
「………対象外?…珍しいな」
執行官は少し驚いたような顔をして、銃をしまった。今度は手を差し伸べられる。
私はその手を取って立ち上がった。
「悪かった。巻き込まれた奴は犯罪係数が上がることが多くてな、癖でドミネーターを向けてしまったんだ」
『…はあ…あの、じゃあ私はどうもないんですか?』
「ああ。これを見て平気なんて、あんたどういう精神力してるんだ?」
まあ、俺に言われたくないだろうが。と付け加えて執行官は笑った。
…まったくだ。潜在犯に精神どうのを言われても困ってしまう。
『犯罪係数が上がっていた方が良かったってこと?』
「いや、上がっていなくて何よりだ。あんたみたいなのは監視官に向いてる。ちょうど今、人手不足なんだ」
『初任給が良ければ考えておきます』
「じゃあ決まりだな」
数ヶ月後。
公安局刑事課一系で彼と再会することになるのは、また別の話だ。