元彼女
「やあ、花子」
『校内ではせめて先生をつけていただけるかしら。水嶋“先生”?』
にこりと。
あくまで平然と答えてやると、相手…水嶋も同じように笑みを向けた。
「じゃあ花子先生、男子生徒にもてはやされてお姫様扱いされるのはどんな気分?」
『…あんたも、学園唯一の女子生徒を口説くのはどんな気分?』
「…お前達もうやめておけ」
お互い一歩も譲らない、という風に向かいあっていると、星月先生が間に入る。星月先生がここにいることはなんら不思議でなかった。だってここは彼の城である保健室だ。
『だって星月先生!さっき水嶋が月子ちゃんとこーんなに顔近付けて喋ってたんですよ!?』
「コミュニケーションだよ」
『あんたはコミュニケーションの意味を履き違えてる。あれはセクハラよセクハラ』
「やだなあ、妬いてるの?心配しなくても、君の相手は夜、ね」
『殴られたいの?』
「昔はあんなに素直だったのに。“郁、郁”ってさ」
『…っ!何年前の話よ!』
私はバン!と近くにあった机を叩く。
バサバサと上に乗っていた書類やファイルが雪崩れた。
「おい、」
『きちんと片付けない星月先生が悪いんです!』
わざとらしく足音を立てて保健室のドアを開けた。
「…どこに行くんだ?今日のレポートがまだ、」
『散歩!』
ピシャン!!
「やれやれ、本当素直じゃないなあ」
「お前もな、郁」
「何のこと?」
そんな会話は、今の私に届くわけがなかった。