理想と現実
ヤマケンがフラれた。
しかも美人でも何でも無いモサいガリ勉女に。
この情報を教えてくれたのは他でもないあの三バカトリオ。なかでもマーボくんのはしゃぎ様ったらない。
まあ、私だって天下のヤマケンがフラれたなんて腹を抱えて笑ってやりたい。
天誅だ、エロ狐め。
「おい、こっちだ」
カフェの椅子に偉そうに踏ん反り返って座ってる男。これが最近失恋した男の姿か。
『何なのよ、人を呼び出しておいてその態度』
「どうせ暇だろ、呼んでやったんだ。休日を俺と過ごせることを嬉しく思えよ」
凹んでたら慰めてやろうと思ってたのにこいつは…!
『オホホホ、私はあんたと違って心が広いから可哀想な失恋くんを慰めてあげようと思って』
ふん、と勝ち誇ったように腕を組むと、ヤマケンは舌打ちをしてコーヒーを飲んだ。
あの馬鹿共殺す。そんな呟きも聞こえた。やっぱりマーボくん達の情報は本物なんだ。
『まあ、いい経験したじゃん。これを機に自分を顧みた方がいいよ』
「あ?俺のどこに顧みる部分があるんだよ」
『そういう高飛車なところとか』
即答してやると不機嫌そうに眉を寄せた。
私は店員さんにカプチーノを頼んでから、ヤマケンを見る。
うわー、イラついてるイラついてる。
「俺は高飛車じゃねえ。事実を言ってるだけだ」
『何そのイタイ発言』
「殺すぞ」
『いや真面目な話。何でフラれたとか、少しも考えないわけ?』
ため息がでた。
ヤマケンはプライドの塊だ。しかもヒマラヤ山脈並の。
だから認めたくないんだろう。誰かに自分を拒否されたことのないヤマケンは、ガリ勉の彼女にプライドを傷付けられたわけだ。
「そいつに他に好きな奴がいただけのことだろ」
『だけってあんたねぇ…』
「それだけのことで、今までの俺を変えるかよ」
『…………』
「めんどくせぇ。何でこの俺がそんなくだらねえことで…」
私に文句、というより自分に言い聞かせているようだった。
…やっぱり少し凹んでるみたい。ったく、素直じゃない。
私は店員さんが運んできたカプチーノに砂糖をいれてかき混ぜる。
「花子」
『何よ』
「お前の好きな男のタイプは」
仕方ない。
ここは1つ、慰めてやりますか。
『………カッコ良くて、頭良くて、将来性がある人』
「ほら見ろ、まんま俺じゃねぇか」
『ハイハイ、そうですね』
満足気なヤマケンに、理想と現実は違うのよ。とは言わないでおいて。
私は甘くなったカプチーノのカップに口を付けた。