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痛いよ。

苦しいよ。



「おい!しっかりしろ!目を開けてくれ!───!」



誰かが必死に私の名前を呼ぶ。
私を抱き締める腕が、強くなった。



助けて。たすけて。タスケテ、誰か、



「俺を、一人にしないでくれ!!」



───…お兄ちゃん、





──────…






黒い世界が視界が覆う。
その中に一人、佇む少年が見えた。私は、彼を知っている。



「ごめんな、────」



闇が、彼を取り込んで行く。
足から順に沈んでいく彼に、手を伸ばした。



「弱い俺はお前を護ってやれなかった。けど、もう大丈夫だ。俺は強くなった」



待って、



だめだよ、そっちに行かないで、



違うの、ただ私は、貴方と、



お兄ちゃん、と



「…ごめんな、マリアム」



お願い、待って、











『行かないで!!!』



目を開けると、暗闇とは真逆の光が映った。白いシーツが目に眩しい。
上半身を起こして瞬きをすると、ポタリとシーツに染みが出来た。

…涙…?



『うそ…泣いてる…?』



服の裾で涙を拭う。
夢を、見た気がした。内容はあまり覚えていない。ただ、とても悲しいものだったのは確かだ。
…ていうか、私なんか寝言言った?自分の寝言で起きたなんて…恥ずかしすぎる。
廊下まで聞こえてなきゃいいけど。



『ってか今何時!?やば、ターニヤさん絶対仕事してる!』



ベッドから飛び降りて、服を着替えた。
慌てていた私は、自分のルフに混ざる白いルフに気付きもしなかった。




















「おはようございます、リホ様」

『おはようございます。すいません、寝過ぎてましたよね…』

「いえ、大丈夫ですよ。早速ですが、こちらの朝食を紅玉様に」

『え!私が!?』



紅玉様ってあのお姫様だよね。私昨日失礼なことしちゃったけど大丈夫かな。
私の不安を読み取ったのか、ターニヤさんが申し訳なさそうに眉を下げた。



「ごめんなさい。私、国王様に食事をお運びしなければならなくて…」

『紅玉様はあのブ…国王様と一緒に食べないんですか?』

「調印式までは顔を見せないしきたりですので」



へえ。そんな決まりがあるのか。
ある意味 顔を見ない方が幸せかもね。あの王様の場合。
私はターニヤさんから朝食を受け取って、紅玉様の部屋がある離宮に向かう。
その間もアラジン達が気になって仕方がなかった。シンドバッドさんがついているし大丈夫…だよね?



「あああああの!」



離宮に着いて、廊下を歩いていると どこからか声がした。キョロキョロと見渡して声の主を探す。
……? 気のせい?



「こ、こっちこっち!」

『あ!…あなたは確か…』



柱に隠れたやけに細長い人影。
アリババくんの謁見の時にアブマドの隣でビクビクしてた…弟のサブマド、だっけ?
仮にも副国王がどうしてここに?



『何かご用ですか?』



一応辺りを確認してからサブマドさんに近付く。
サブマドさんもサブマドさんで私が近付くと更に柱の陰に隠れた。
…それじゃ意味ない気がする。



「シンドバッドおじさんから…あ、貴女は味方だと聞いて…」

『シンドバッドさん?』



そこで、私はサブマドさんから全てを聞いた。
自分が"霧の団"に情報を漏らしていたことも、調印式で結ばれる公約のことも。
ターニヤさんが言ってた通りだ。
このままじゃ、本当に全国民が奴隷にされてしまう。

話す間、サブマドさんはずっと震えていた。
アブマドを止めることが出来なかったことを、彼は後悔しているんだろう。



『サブマドさん』

「…っ!」

『後悔してる暇なんてないですよ!少しでも悪いと思うなら何としてでも止めなきゃ!宮殿内で出来ることなら私も協力するから!』



怒られると思っていたのか、目を丸くするサブマドさん。



「あ、ありがとう…」



…待てよ?この人がシンドバッドさんと会ったということは…



『あの!アラジンとアリババくんはどうなったか知ってますか!?』

「ぼぼ僕が行った時、アリババは怪我していたようだけど元気そうだったよ…」

『じゃあアラジンは?…えっと…三つ編みをした青い男の子、いませんでした?』

「……み、見てないけど…」

『…そうですか』



…まだ分からない。サブマドさんがいた時に偶々アラジンがいなかっただけかもしれない。
だけど、頭に過るのは嫌な想像ばかりで。

私は気を紛らわすために、サブマドさんにお礼を言ってから再び紅玉様のいる部屋を目指した。

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