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『…ん、』



目を開けると、白い天井が見えた。
…あれ、私どうしたんだっけ?



「目が覚めたか リホ」



上体を起こすと、シンドバッドさんが横のソファーに座っていた。
ソファーからベッドのサイドに移って困ったように笑う。



「驚いたよ、あんな無茶をするなんてな」

『無茶…?』

「昨日の晩、アリババくんに向かって突っ込んでいっただろう?覚えていないのか?」

『……あ!』



そこで全て思い出した。
そうだ、あの時 身体が勝手に動いて…
いや、身体だけじゃない。私、アリババくんに何か…



『あの、それで霧の団は…アリババくんはどうなったんですか?…まさか本当に捕まっちゃったんじゃ…』

「安心してくれ。俺は霧の団に入った。彼らの味方だ」

『………は?』



アリババくんは無事みたいだ。それはシンドバッドさんの言葉で読み取れた。
けど今この人何て言った?霧の団に入った?



『入ったって……え?盗賊になったんですか?』

「彼らと共に国と戦うことを決めたのさ」



…いや、いやいやいやいや!
この人 霧の団を「絶対許せない!」みたいなこと言ってなかった!?
あれ幻!?私が倒れてる間に何があったの!?



「リホ、君も気が付いているだろう。この国はかつてない財政難に悩まされている」



私は初めてアリババくんと会ったスラム街を思い出す。
荒れ果てた土地、吹きさらしの民家、布一枚の服を着た人達。
テレビの中だけだと思っていた現状が、そこにはあった。



「一国の王として、見過ごすわけにはいかない。このままでは俺の国にまで支障がでるかもしれないからな」



だから、とシンドバッドさんは続けた。



「君にも協力して欲しい。この国を…バルバッドを変えるために」



力強い目だ。霧の団を退治すると言った時もそうだった。
シンドバッドさんの言葉は、人を動かす力があるんじゃないんだろうか。
否、有無を言わせない…と言うべきか。とりあえずそうしなければいけない気がしてくるのだ。



『わ、私に出来ることなら…』



答えると、シンドバッドさんは親しみやすい笑みを浮かべる。
でも私に出来ることなんてあるんだろうか。



「そうか!ありがとう!…そうだ、君にもう一つ聞きたいことがあってね」

『?』

「ジャーファルから聞いたんだが、君の"力"は「リホおねえさん!」



バン!と部屋の扉が勢いよく開いて、アラジンが駆け寄ってくる。
モルちゃんとアリババくんも後から入ってきた。



「大丈夫なのかい?」

『うん、大丈夫。心配かけてごめんね。…アリババくんも、なんか変なことしちゃってごめん』

「え!?…いや、俺は別に…」



アリババくんが目を合わせてくれない。
抱きついてしまったからかな。思春期なのに本当に申し訳ないことをしてしまった。
私もどうしてあんなことをしてしまったのか分からないんだけどね。



「リホおねえさんがアリババ君に抱きついた時、おねえさんがまるで別の人みたいに見えたよ」

『…え?』



別の人?…もしかしてあの時の声と関係があるのかな。
その言葉に反応したのは私だけではなかった。アリババくんが微かに驚く。
そして何故か私はシンドバッドさんと目が合った。



『…あ、すいませんシンドバッドさん…ジャーファルさんが何でしたっけ?』

「…あ、ああ、やっぱり後にするよ。先にこれからのことを言っておこう」



俺とアリババくんは、今からバルバッド王宮へ行く。
それを聞いて えっ、と思わず声を漏らした。
いくら王子でも盗賊をしていたアリババくんを連れて行くなんて…
シンドバッドさんがいるからって そんなことして大丈夫なの?



「リホにも付き添ってほしいんだ」

『私?』

「ほら、君は働き口を探していただろう」

『それは…そうですけど、それと何の関係が…?』

「下女になるのさ。王であるアブマドにはもう伝えてある。王宮の中なら住み込みだし、安心して働けるだろう」



げ、下女!?それってメイドってこと!?
いきなりハードル高くない!?
仕事を見つけてくれたのはすごく嬉しいけども!



「君は俺の国…シンドリアの下女で、バルバッドへは生き別れた弟を探すために来たことにしてある」



何その設定。
特に弟のくだり。絶対すぐバレるじゃん!



『ちなみにその設定考えたのって…』

「俺だが?」

『やっぱり!』



助けてジャーファルさん!あなたの主人ものすごいホラ吹きです!



「そうと決まれば王宮へ向かおう。アリババ君、きみの兄が待っている」

「はい…!」



そう言ったアリババくんは、憧れと尊敬の眼差しをシンドバッドさんに向けていた。

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