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「悪いね お嬢さん、あんたを雇える金はうちにはないよ」

『…そうですか。ありがとうございました』



朝から店という店をハシゴして、そろそろ太陽が真上に上りはじめていた。
声をかけて周ってみたはいいものの、どこもかしこも「給料が払えない」の一点張り。
私のいた世界なら電話をかけてちょっと面接するだけで働けるのに。
…世の中 そんなに甘くはないってことなのか。



『困った…』



…それにしてもこの国、もしかして結構 財政難?
市場をちょっと離れれば、貧富の差は歴然だった。
うーん、そりゃ他人の私を雇う余裕なんてないよねー。



「そこのお嬢さん」

『…はい?』



もうちょっと頑張ってみるかな、と働けそうな店を探していると後ろから声をかけられた。
振り向くと、男が二人立っていた。



「仕事を探しているのかい?」

『はい、そうなんです。どうしてもお金が必要で…』

「ならいい働き口があるぜ」

『え!本当ですか!?』

「ああ、こっちだよ」



男の一人が私の腕を引っ張る。
断る理由なんかなく、私は大人しく二人について行った。



『どんなお仕事なんですか?』

「なに、簡単な仕事さ」

「お嬢さんは大人しく寝ているだけでいい」



寝ているだけ?そんな仕事がある…のか?
なんだかおかしい事に気付いたのは、市場からは離れた所謂"スラム街"に来た時だった。



『あの…やっぱりいいです』

「今更 何言ってんだ?金が欲しいんだろ?」



腕を振りほどこうとしたが、簡単には離れない。
…これ、もしかしなくても超やばい?



『ちょっ、離して!…っ!?』



そのまま人気の無い路地裏に連れ込まれ、がん!と床に押し倒された。
男の一人が息を荒くして私の上に乗る。もう一人は頭上から私の腕を抑えた。



「この辺の女にしては小綺麗だな。高く売れるんじゃないか?」

「どうせ売り飛ばすんだ。一発くらいやっちまおう」

「バカ、二発だろ」

「ああ、そうだったな」



男達は下品に笑う。
会話が、何のことを言っているかわからない程 私は子供じゃない。



やられる…!!



『じょ、冗談じゃない!!離してよ!誰か!!』

「ははっ、助けを呼んだって無駄だぜ」

「この街の奴等は自分のことで精一杯だからなあ!」



身をよじっても全く抵抗にならない。男の手が、服の裾から中へ入る。
本気でやばい!誰か…!!

ぎゅっと目を瞑った、その瞬間。



ゴッ

ばたり



私の上に乗っていた男が横に倒れた。
…え?何?何が起きたの 今?
目を開けて、状況を確認する。



「お前ら、ここで何してんだ?」

「ひっ!誰だ お前!」




頭を布で覆った青年。…いや、声からして…少年…?
短剣を持った彼に、私を掴んでいた男は怯えたように声をあげた。
拘束が無くなった私は、素早く起き上がる。



「俺はアリババだ」



"アリババ"
その名前はバルバッドに来てから何回も聞いた。
アラジンとモルちゃんの友人。そして同じ名の今 最もこの国を騒がせている男。



「アリババ…?怪傑アリババか…!!」



アリババは短剣を男へ向ける。



「今すぐここから消えろ。次 同じことをしたら殺す」

『…?』



アリババの物騒な言葉よりも、彼の持っている短剣が気になった。
私の周りにいた金色のルフが騒がしく飛び回る。

…あの短剣に何かあるの?

短剣を眺めているうちに、男達は逃げ帰っていった。
アリババは短剣を胸に直して私を見る。



『あ、ありがとう…ございます』

「これに懲りたらもうこんな所来るなよ、お姉さん」



さっきの声色と違って、更に少年らしくなった。



『…………』



その時、ふと思った。

アラジンのいう"アリババくん"は彼じゃないか、と。



『あのっ「おいアリババ!何やってんだ!」



アラジンのことを言おうとしたら、違う少年の声に遮られた。
ドレッドヘアを一つでまとめた少年は、私を見るとため息をついた。



「お前、あんまり昼間に出歩くなって言ったろ?」

「分かってるよカシム。襲われそうになってたんだ。ほっとけねぇよ」

「…行くぞ。みんな待ってる」

「ああ」



じゃあな、お姉さん。と二人はスラム街の奥へと消えていった。

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